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1jigendaddyjigendaddy   ('A`)ドクオが生きるという事について考えるようです

http://ex17.2ch.net/test/read.cgi/news4vip/1163423241/

3 名前:(・へ・) 投稿日:2006/11/13(月) 22:07:55.59 id:e68qkRWc0
 ウェルテル効果という現象がある。
大切な人…一般的に言えばカリスマ的な存在が死ぬことで
連鎖的に後を追うように人が死んでいく現象………
 それがウェルテル効果である。

6 名前:(・へ・) 投稿日:2006/11/13(月) 22:09:12.85 id:e68qkRWc0
 吹きすさぶ冬の風が街を撫で、その風に震える樹が窓越しに見えた。
外とは打って変わって暖かいホテルの一室。
事を終えた俺とクーは身体を寄せ合っていた。
クーの背に手を這わせ、もう片方の手でクーの髪を優しく撫でる。
やはり今日も、どうしようもなく申し訳ない気持ちになった。

「ドクオ君。」

 俺の胸元に顔を置いたままクーは不機嫌そうな表情で
覗き込んできた。


7 名前:(・へ・) 投稿日:2006/11/13(月) 22:09:50.27 id:e68qkRWc0
「君、途中でツンの名前を呼んでいたぞ。」

 俺はしまった、というような表情をしたと思う。
間抜けな俺の表情を見てクーはため息を漏らす。

「やれやれだな。
 君を責めたりはしないが…。」

「すまね。」

 もう一度ため息を漏らしてクーはシャワーを浴びに行くと残して
シーツで胸元を隠しながらベッドを出る。
俺はそんなクーを見送り、脱ぎ捨てた上着の胸ポケットに
入れていた煙草の箱から一本煙草を取り出す。


9 名前:(・へ・) 投稿日:2006/11/13(月) 22:10:31.54 id:e68qkRWc0
 備え付けのマッチで火をつけて煙草を吸う。
途端、煙草の匂いとクーの匂いが混じった何ともいえない匂いに包まれる。

 銘柄はピース。

ツンが吸っていたから俺もこれを吸っている。
そして、クーもその事を知っている。
クーにしてみれば実に腹の立つ話だろう。
俺自身、この事に限らず、クーには本当に申し訳ないと思っている。

10 名前:(・へ・) 投稿日:2006/11/13(月) 22:11:05.52 id:e68qkRWc0
 クーとはつい最近、付き合う事になった。
ツンが自殺したのをきっかけに、付き合う事になった。

 きっかけとしては最悪だろう。
だが、それでも俺にはクーとのこの曖昧な無責任さと自由さが
確かに存在する距離感が心地良かった。

 我ながら思う。俺は最低だと。


返信2007/07/08 22:52:50

2jigendaddyjigendaddy   ('A`)ドクオが生きるという事について考えるようです-2

11 名前:(・へ・) 投稿日:2006/11/13(月) 22:11:48.01 id:e68qkRWc0
----------------------

 ここ最近、近しい人の死に触れる事が多かった。
見殺しにした………というのは語弊があるが
要は死にたいと相談を持ちかけてきた友人達が
悩み抜いた果てに見出した”自殺”という選択を止めずに、
むしろわが身可愛さに後押しするような事を言ったのに端を
発するのだと思う。


12 名前:(・へ・) 投稿日:2006/11/13(月) 22:12:32.33 id:e68qkRWc0
 その友人達はブーンとツンという名前だった。

 俺とクーがまだ学生だった頃に出会い、一緒に色々とバカをやった間柄だ。
貴重な青春時代を、共に過ごした掛け替えのない仲間だ。

 ブーンとツンはその頃は性格が合わず、洒落にならないケンカをしては
和解するという見ている側にとって心臓に悪い事を繰り返していた。
しかし、男女関係というものは何者にも予測できないという
誰かの言葉の通り、二人は紆余曲折を経て結婚するに至った。
 二人の間に子供が出来て、結婚すると聞かされた時には
クーも俺も驚いた。


13 名前:(・へ・) 投稿日:2006/11/13(月) 22:13:09.76 id:e68qkRWc0
性格的にはちょっとクセが強く、それでも自分の意志と信念を
強く持っている二人はそれなりにうまくやっていたようだった。
程なくして愛娘も生まれた。

 学生の頃と違い、ブーンとツンを除いてオレもク-も
全員、就職や進学の都合で離れた場所に住み移ったが、
偶然、四人が揃って地元に揃う事があり、俺達は久しぶりに
顔をあわせた。

 人妻となり、母となったツンはさらに魅力的になり、
ブーンはブーンで一児の父として、さらに若いながらに
何かしらの役職に就いた事もあってか、逞しい顔つきになっていた。
それに比べて、俺は相変わらず学生に間違われるような
子供っぽい顔つきのままだった。


15 名前:(・へ・) 投稿日:2006/11/13(月) 22:14:00.27 id:e68qkRWc0

「おめでとさん。」

 学生時代によく利用していた居酒屋。
手にしていたグラスをブーンのグラスに合わせる。

「ありがとうだお。」

 どこか皮肉っぽく見える微笑を絶やさずにブーンが
グッと一息にビ-ルを飲み干す。

「26歳で昇進だろ?まぁ、スゲーよな。
 良かったじゃねーか。」

 ブーンに対抗するようにビールを一気に飲み干し、
白々しく言ってみる。
想像通り、ブーンは表情を曇らせた。


16 名前:(・へ・) 投稿日:2006/11/13(月) 22:14:41.42 id:e68qkRWc0
「そうは言うけど、消去法でブーンしかいなかっただけだお。
 本当に上に立つべき人はみんな、辞めていってしまったお。」

 だよな。すまん。
俺も分かってて言った。

 俺もブーンも離職率の高い仕事に就いている。
だから、良い具合に育った人は次々と職場を変えてしまう。
若いながらの異例の昇進もこの業界を見渡してみれば
そう珍しい話ではなかった。


17 名前:(・へ・) 投稿日:2006/11/13(月) 22:15:13.78 id:e68qkRWc0
「それでも、トントン拍子に出世を重ねてるんだ。
 羨ましい事じゃないのか?」

 クーが口を挟む。

「そうでもないお。」

「出世ってのは割にあわないもんだって言うもんな。」

「増える手取り以上に押し付けられる事は多くなるものだお。」

 入社し立ての頃が特にそうだ。
昇進や出世といったものがこの上ない栄誉だと思っていた時があった。
 だが、現場の現実、会社の中の人間関係の管理、
上層と下層の仕事への取り組み方の意識の相違、
”出世”とはそれらの管理を押し付ける体の良い言葉だと
いつからか俺達はそう認識していた。


18 名前:(・へ・) 投稿日:2006/11/13(月) 22:15:42.07 id:e68qkRWc0
「だがまぁ、それが社会というものだろう。
 とにかくおめでとう。」

「あぁ、まぁありがとうだお。」

「気のない返事をするんじゃないの。
 せっかくクーもドクオも祝ってくれてるんだから。」

 少し曇った表情のブーンをツンが軽く小突く。
ブーンは少しムッとしたような表情になったが
すぐにやれやれ、といった素振りで普段の表情を見せる。

「そうだなお。」

 その何でもないやり取りに、ブーンとツンの間には絆が確かに
生まれて、育っているんだな、と思った。

「そういえば、ドクオは今の会社を辞めるって言ってなかったっけ?」

19 名前:(・へ・) 投稿日:2006/11/13(月) 22:16:13.80 id:e68qkRWc0
 不意にツンが俺に話題を振る。
正直、蒸し返して欲しくない話題ではあった。

 去年の暮れ。
会社のプロジェクトが一段落した頃、俺は何を思ってか
今の職場を出てもっと大きな会社に行こうと考えた。
自身の実力も省みずに。

「あ、あぁ…。」

「まだ話してなかったのかお?」

 ブーンには転職について何度か相談を持ちかけた。
ブーンはまだまだ今の会社で技術を磨けと言っていたが
無駄に血気盛んな俺は会社を辞めてキャリアアップという
蜃気楼のような具体性のない何かを求める事を心に決めていた。


20 名前:(・へ・) 投稿日:2006/11/13(月) 22:16:57.10 id:e68qkRWc0
 だが、上司にも話を通し、転職先への履歴書やその他
自分の実力をアピールするための作成物まで用意した所で、
不意に俺は自分の力に自信を無くしてしまった。
 俺は踏みとどまってしまったのだ。
ここで盲目的に飛ぶ事が出来ずに、俺は恥かしげもなく
もうしばらく会社に置いて欲しいと上司に頼み込んだ。
上司は特に嫌味を言うでもなく、新たな仕事を与えてくれて
何事もなく、同じ会社に身を置かせてくれた。
ありがたいと思った。
癖は強いかもしれない。だけど、安定した職場にいて、
俺は徐々に転職に見た夢を失いつつあった。

「もうしばらく今の職場に居る事にしたんだよ。」

「そうなんだ。」

「まぁ、それが一番だよ。」

 ツンもクーもどこかホッとした表情でそう言ってくれた。
だが、ブーンだけは違った。


「ドクオは半端者だお。」




21 名前:(・へ・) 投稿日:2006/11/13(月) 22:17:39.46 id:e68qkRWc0
 上司に謝った後、ブーンにも会社に残るという事を報告した。
その時に、返された言葉はこれだった。

 一度は考え留めるように促したブーンだが
俺のあの時の決意を汲み、転職先についても色々と
情報を与えてくれたり、前向きに力添えしてくれただけに
ブーンからすると、俺がとったこの行動は裏切りと
言って差し支えのないものだったのだろう。
だけどブーンはそれだけ呟いて、その後は俺の今後について
また相談に乗ってくれた。



22 名前:(・へ・) 投稿日:2006/11/13(月) 22:18:06.93 id:e68qkRWc0
 安堵してくれているように見える二人とは対照的に
今のブーンの表情はあの時、きっとこういう顔で
この言葉を言い放ったんだろうなと思わせる何とも言えない
表情だった。



返信2006/11/15 11:14:18

3jigendaddyjigendaddy   ('A`)ドクオが生きるという事について考えるようです-3

23 名前:(・へ・) 投稿日:2006/11/13(月) 22:18:40.43 id:e68qkRWc0
 それから、長い時間をかけて話をした。
二人の新婚生活の事。
ブーンや俺の仕事の事。
ブーンとツンの娘の将来の事。
クーの就職活動の事。

 話題はいくらでもあった。
だけど、時間だけは有限で、まだまだ話すことは
尽きなかったけれど、場はお開きとなった。


24 名前:(・へ・) 投稿日:2006/11/13(月) 22:19:24.40 id:e68qkRWc0
「また機会があればみんなで揃って飲むお。」

 会計を一人で全員分済ませたブーンがそういってしめる。
今日こそは、と俺はサイフを取り出し、今日の為に用意しておいた
万札軍の中から二枚を取り出しブーンの手にねじ込む。
が、ブーンの方が上手で万札は俺の手にねじ込み返される。
おかえり、俺の一万円達。

 これもまた、いつもと同じノリだった。


26 名前:(・へ・) 投稿日:2006/11/13(月) 22:20:02.23 id:e68qkRWc0
「先行投資だお。
 ドクオが将来出世したらこれの何倍もの値のする料理を
 ご馳走するんだお。」

「おや?ドクオ君が出世出来るのか?」

ツンが笑う。
俺はムッとする。
ブーンとクーが俺を見て笑う。
俺達は本当に、いい仲間だ。
心の底からそう思う。


27 名前:(・へ・) 投稿日:2006/11/13(月) 22:20:44.03 id:e68qkRWc0
 並んで歩くブーンとツンは昔と変わらず、サマになっていた。
歳にして俺とほんの二つ、三つしか変わらないその男の背を見て
俺は、俺なりにこの男という目標を追い求めていきたいと、
改めて思った。

28 名前:(・へ・) 投稿日:2006/11/13(月) 22:21:15.79 id:e68qkRWc0


 時は流れ、季節にして夏の終わり。
厳しい夏の日差しの終わりと秋の到来を感じさせるある日。

ブーンが過労で倒れたと、ツンから連絡があった。


 仲間という絆で結ばれた俺達という歯車はここから
噛み合わなくなったのだと今にして思う。

29 名前:(・へ・) 投稿日:2006/11/13(月) 22:21:44.12 id:e68qkRWc0

相当に劣悪なプロジェクトのリーダーを
任されているという話は聞いていたが、
それでも、まさかブーンが倒れるとは思わなかった。
連絡を受けて、俺は自分の仕事が順調ではないながらも
有給を貰い、日帰りでブーンの見舞いに出向いた。


30 名前:(・へ・) 投稿日:2006/11/13(月) 22:22:12.50 id:e68qkRWc0

 受付でブーンの病室を聞いて白く長い廊下を歩く。
あれだけ俺に身体には常に気を配れと言っていた
ブーンが身体を壊したんだ。
どう からかってやろうかな、とそんな軽いノリで考えていた。
ほんのちょっとの言葉と、見舞いの品があれば全ては
元通りになるんだとこの時はそう思っていた。そう信じていた。


「内藤ホライゾン」というプレートのかけられた病室に辿りつく。
「病室内では静かに」という壁に張られたポスターに従って
遠慮がちにドアをノックする。

 返事はなかった。
トイレにでも行ってるのか?
またも遠慮がちにノックして、そしてドアを開けた。

「ブーン、居るか?」


31 名前:(・へ・) 投稿日:2006/11/13(月) 22:22:51.34 id:e68qkRWc0

 ベッドの上にはブーンがいた。

「ドクオかお…よく来てくれたお。」

 だが、久しぶりに会ったブーンからは”覇気”が失せていた。
自信家でそのくせ隠れて努力をして、俺を小バカにしながらも
面倒見てくれる、野心家で憧れの男の面影はそこにはなかった…。

 こいつは誰だ?
思わず、心の中で俺は俺自身に問いかけた。

 しっかりしろよ。
こいつはブーンだ。ブーンに違いねぇんだ。

「な、なに暗い顔してんだよ。
 らしくもねぇ。」

 俺の声は劇やアニメを思わせるほどに上擦っていた。
見た目はブーンに違いない。だがオーラというか雰囲気はまるで
死人のような…ともかく形容しがたい負を感じさせた。


32 名前:(・へ・) 投稿日:2006/11/13(月) 22:23:25.19 id:e68qkRWc0

 無理に取り繕ってブーンにお見舞いのシュークリームを手渡す。

「元気出せよ。
 お前がそんなんじゃ調子出ないだろ。」

「そうかお…。
 それはすまなかったお…。」

 それから一時間、ブーンと話をした。
と、いうよりも一方的に俺が喋りブーンが相槌を返すような
何とも滑稽で、苦痛しか感じない一時間だった。





33 名前:(・へ・) 投稿日:2006/11/13(月) 22:24:06.33 id:e68qkRWc0

「じゃあ、また来るな。
 元気、出してくれよ。」

空気に耐えられなくなった俺はそこで見舞いを中断する事にした。

今は時期が悪かったんだ。

 そう自分に言い聞かせた。



「ドクオ。」

病室を出る前、ブーンが自ら口を開いてくれた。





34 名前:(・へ・) 投稿日:2006/11/13(月) 22:24:46.81 id:e68qkRWc0



「会社、クビになったお。」




 それだけ言って、ブーンは窓の外に広がる景色に目をやる。
それきり、奴は微動だにしなかった。

 窓の外から聞こえる遅生まれな蝉達の鳴き声が
病室の静寂を無遠慮に塗りつぶした。


返信2006/11/15 11:16:27

4jigendaddyjigendaddy   ('A`)ドクオが生きるという事について考えるようです-4

35 名前:(・へ・) 投稿日:2006/11/13(月) 22:25:39.07 id:e68qkRWc0
 平日にも関わらず人のごった返す病院の待合室。

 ざわめきの中で無意識的に耳が拾う音もいくつかあったが
それらは全て耳で塞き止められ、頭には入って来ない。

 今の俺の頭の中にはさっきのブーンの言葉しかなかった。

”会社をクビになったお。”

 一回のミスでクビ?
有り得ないだろ、常識的に考えて。
だとしたら会社辞めますなんて上司に伝えた
俺なんてどうなるんだよ。


36 名前:(・へ・) 投稿日:2006/11/13(月) 22:26:29.46 id:e68qkRWc0
 まとまらない考えばかりが止め処なく出てくる。
だけど、ブーンのあの表情が物語るのは一つ。
ブーンが言った事は本当なんだ…という事。


「ドクオ。」

 騒がしい待合室の中、よく透るツンの声が聞こえた。
その表情はいつものような優しい笑顔だったが、心なしか
どこか曇っているようにも見えた。

37 名前:(・へ・) 投稿日:2006/11/13(月) 22:27:15.74 id:e68qkRWc0

「お見舞い、来てくれたんだ。」

「あ、あぁ。」

「ブーンには会った?」

「………会ったぜ。」

「そう。」

 そこまで言葉を重ねて、お互いに何も言えなくなった。




38 名前:(・へ・) 投稿日:2006/11/13(月) 22:28:05.00 id:e68qkRWc0

「すぐそこに喫茶店があるの。
 行かない?」

 無理に笑顔を作ってツンはそう提案する。
俺もツンを真似て無理に笑いながら頷いた。

 近くを歩いていた患者らしい男がぎこちなく笑う俺達を
不思議そうに見ていた。

39 名前:(・へ・) 投稿日:2006/11/13(月) 22:28:42.33 id:e68qkRWc0
---------------

 病院の向かいにある小さなこじゃれた喫茶店。
入り口から一番離れた隅っこの席に俺とツンは
向かい合うように座った。


「解雇…されたの。」

 注文を終えて最初に切り出したのはツンだった。
あまりの直球。少しは軽い話からかと思って身構えていなかった俺は
少し狼狽する。

40 名前:(・へ・) 投稿日:2006/11/13(月) 22:29:20.68 id:e68qkRWc0
 だけど、詳しく問いたださなければならない。

「一回のミスで解雇って、そんなの有り得るのか?」

 少なくとも、似たような業種で飯を食っている人間として…
それが公平な処遇なのか見極める義務がある。
そんな気がした。
 その証明がブーンの回復に繋がるかもしれない。
ツンの言葉を一言たりと聞き逃さないように、耳を傾ける。


「私は断片的にしか聞いてないけど……」


41 名前:(・へ・) 投稿日:2006/11/13(月) 22:30:13.66 id:e68qkRWc0
 ツンの話を要約し、俺なりにまとめるとこうだ。

とある小規模なプロジェクトをブーンは任された。
当初の予定なら何とか人数的にも期間的にも達成が
出来そうだという仕事だったらしいが、いつの間にか
どこか見知らぬ高い場所でプロジェクトに求められる成果物が
思いのほか重要視され出した。当初の予定にない嬉しい
アクシデント…と取れなくも無かったが期待値が肥大化し、
クライアントからの追加予算と何とも言えない現場指揮の
人材が投入され、ますますプロジェクトは大きくなっていった。
しかし、そこで一つの良くない問題が発生する。
途中で投入されてきたクライアントの人間というのが
全く技術力を持たない人間だったらしい。自己掲示欲だけは人一倍強く
指揮をしたがるという現場にとって害悪以外の何者でもない存在が
実作業だけではなく、人材管理まで任され、仕事を回していたブーンから
人材管理という部分を剥奪し、理解に苦しむ仕事の割り振りを始めた所から
プロジェクトは迷走を始めた。
ありえない期間でありえない大規模なモジュールを組め、
聞きかじったソースコメントの指示を徹底付ける。
そして、次々と人間が辞めて行ってしまった。
中には消息不明になった人間や身体に異常を来たした者もいたという。
親族から訴えられたが、その男は責任逃れだけは上手く全てを
ブーンに押し付け、自らは知らん顔をしてやり過ごし
会社が背負うことになった損失とクライアントからの信頼の裏切りの
責任者としてブーンは祭り上げられたのだ。

42 名前:(・へ・) 投稿日:2006/11/13(月) 22:30:51.95 id:e68qkRWc0

 そのプロジェクトについては俺も断片的にブーンから
聞いている分には有り得ない話だと思っていた。
だが、その有り得ないを成し遂げようと頑張って”今”に行き着いた。
救いのない話だ。
全ての責任を負わされて、ブーンは解雇を飛び越えて懲戒免職となった。

 毛色は違っても似たような業種だけに、似たような話はよく耳にする。
しかし、これはあんまりだと思った。


43 名前:(・へ・) 投稿日:2006/11/13(月) 22:31:31.40 id:e68qkRWc0

「なんだよ、それ!!」

 溜まりかねて口から悲鳴にも似た声が漏れ出した。

「………それからね、ブーンはああなっちゃったの。」

 運ばれてきたコーヒーカップを両手で包むように持ち、
俯いた視線のままツンは続けた。

「ブーンね、二回死のうとしたの。」


45 名前:(・へ・) 投稿日:2006/11/13(月) 22:32:25.19 id:e68qkRWc0
 あまりの告白に身体がビクリと反応する。
スプーンを掴みそこね、耳障りな金属音が店内に響いた。
ツンは表情を見せない格好のままに、なおも言葉を繋げる。

「一度目も二度目も首を吊ろうとしていたわ。
 わざわざ娘が見ている前でね。」

 吐き気を催した。
ブーンが、あのブーンがそんな真似をするようには見えなかった。
だけど、あの病室で見たブーンは…そうも、見える。

「くそったれ…。」

 言葉が見つからなかった。

46 名前:(・へ・) 投稿日:2006/11/13(月) 22:34:23.37 id:e68qkRWc0
だけど………ブーンに非はない。

そうだよ。
ブーンはどこかの誰かさんが言い出した”無茶”を通すために、
頑張ってボロボロになったんじゃないか。


ガタンと、大きな音を立てて椅子から立ち上がる。


「どこに行くの?」

 カップを両手で抱くように持った格好で、ツンが顔を上げる。
女性らしい仕草に少しドキッとする。


47 名前:(・へ・) 投稿日:2006/11/13(月) 22:35:02.27 id:e68qkRWc0
「もう一回、ブーンに会ってくる。
 それで説明してやるんだ。
 あいつは悪くなんかないんだって。」



「やめて。」



一瞬、ツンが何を言ってるのか分からなかった。


48 名前:(・へ・) 投稿日:2006/11/13(月) 22:35:38.80 id:e68qkRWc0
「え?」

「今は、そっとしておいてあげて。」

「何言ってんだよ!
 そんな悠長に構えてられないだろ!?
 いつまた死のうとするか分からないじゃないか!」

 ツンの両肩を掴んで周囲の客目も気にせず俺は叫んだ。
だけど、ツンは怯えた様子も驚いた様子もなく、
静かな湖面を思わせる平然とした表情で、ただ俺を見据えていた。


49 名前:(・へ・) 投稿日:2006/11/13(月) 22:36:12.63 id:e68qkRWc0
 ふっと、ツンの手が肩を掴む俺の片方の手を優しく撫でた。
柔らかく冷たい感触に狼狽して俺はツンの肩から手を離す。

 ツンの表情は相変わらず穏やかだったけれど、
その表情の下にはさっき見せた”拒絶”の意志が見て取れた。

 何故、ブーンに伝えちゃいけないんだ?

51 名前:(・へ・) 投稿日:2006/11/13(月) 22:37:02.38 id:e68qkRWc0

”お前は悪くなんかない。”

 その一言を届けちゃいけない理由でもあるのかよ?
意味が分からなかった。

 だけどこの話はここで打ち切られ、後は二人の近況とこれから…
そして万一の事を考えて、少しの間、娘をツンの実家の両親に
預けるという事を聞かされた。
 ここに来て、ようやく俺は気付いた。
―――何かがおかしくなり始めている、と。




52 名前:(・へ・) 投稿日:2006/11/13(月) 22:37:41.68 id:e68qkRWc0
 ツンの分も一緒に喫茶店の会計を済ませて店の扉を開ける。
扉に備え付けられたベルがガランガランと音を鳴らし
店員の「ありがとうございました」という声に見送られて
二人並んで店を後にした。
 店の外に出て時計を見る。
時間は三時半。空の色はまだまだ青い。

「それじゃあ今日はどうもありがとう。
 それと、ご馳走様。」

 にこっという音が聞こえそうな柔らかい笑顔を見せて
ツンは軽く頭を下げた。

「ご馳走っつってもコーヒー一杯分だけどな。」


53 名前:(・へ・) 投稿日:2006/11/13(月) 22:38:29.30 id:e68qkRWc0
 二人していくらか自然な笑みを漏らす。
何気ないやりとりだったが、少しだけ安心出来た。

「それじゃあ、俺そろそろ帰る。
 何かあったら連絡くれよ。」

「うん、ありがとう。」

「相談でも何でも、頼りないかもしれないけど
 俺でよかったら乗るからさ。」

「うん。」

 もう二つ三つ言葉を交わして俺とツンは別れた。
別れ際、ちらっと、ツンのバッグの中に煙草の箱が
入っているのが見えた。


54 名前:(・へ・) 投稿日:2006/11/13(月) 22:39:05.80 id:e68qkRWc0
ツンもブーンも嫌煙家のはずだったんだが…?
まさか娘さんが吸ってるってか?
なーんて、ようやく言葉を喋りだした女の子が煙草を吸うわけがないよな。

 特に深く考えず、俺は駅に向かって歩き出した。

返信2006/11/15 11:19:27

5jigendaddyjigendaddy   ('A`)ドクオが生きるという事について考えるようです-5

55 名前:(・へ・) 投稿日:2006/11/13(月) 22:39:58.98 id:e68qkRWc0
 慣れない都内の電車を乗り継ぎ俺は新幹線に乗り込む。

 リラックスし難いシートに身を任せ、まどろんでいると
今日一日の出来事が堰を切ったかのように脳裏に流れ込んできた。
すっかり意気消沈したブーンの姿。
理不尽なブーンの会社への憤り。
ブーンが死のうとした事。
少し落ち込み気味に見えたツンの顔。

 思い出しては怒りがやってくる。
 そしてまた思い出しては悲しみがやってくる。
 俺の心は考えと感情を整理出来ないが為に大きく乱された。

56 名前:(・へ・) 投稿日:2006/11/13(月) 22:41:05.61 id:e68qkRWc0

 無性に喉が渇いた。
喉だけではなく、他にも色々と乾いたような気がした。

 車内販売のお姉さんがちょうどいいタイミングでやって来たので
普段は全く飲まないビールを買って飲む。

 酔えば、この感情の波から少しは逃げられるかと思った。

57 名前:(・へ・) 投稿日:2006/11/13(月) 22:41:44.19 id:e68qkRWc0
 傍から見て学生にすら見えかねない俺が
夕方にもならない時間にビールをかっ食らう姿を見て
中年サラリーマンは嫌味な表情を見せたが知った事か。

 こんなグチャグチャな気持ちになって飲むビールが
羨ましいなら気持ちごとくれてやる。

59 名前:(・へ・) 投稿日:2006/11/13(月) 22:42:46.46 id:e68qkRWc0

 およそ二時間が過ぎて新幹線を降りる。
歩きなれない駅を歩き、家へと向かうローカル線の切符を
買ってホームで電車を待つ。

 帰宅ラッシュの時間か、ローカル線に関わらず駅構内は
結構な人でごった返していた。
電車に乗り込む人の列に向かうよりも先に、俺は自販機で
お茶を買って口直しする。
ビールは俺の口には合わなかった。
一時間以上口を蹂躙していた嫌な味が浄化されていく。
二十歳を超えて二年が過ぎたが、未だに酒の味は理解出来ない。


61 名前:(・へ・) 投稿日:2006/11/13(月) 22:43:35.05 id:e68qkRWc0

ピリリリリリ

 携帯が鳴る。
疎ましそうに俺を睨むオバサン集団から逃げるように
列を抜け出て電話に出る。

「もしもし、ドクオ君か?」

 電話はクーからだった。

62 名前:(・へ・) 投稿日:2006/11/13(月) 22:44:21.01 id:e68qkRWc0
「珍しいな、お前が電話してくるなんて。」

「あぁ、さっきツンと電話で話したからな…。
 少し気になって電話した。」

「そうか。」


 俺は実際のブーンの様態を話して、クーは俺があまり詳しく
聞けなかったツンの状態や入院費用やこれからの生活費、
会社への手続きなど妙に生々しく切実な話を聞かせてもらった。


「ツンが……気にしてたよ。」

 一しきり互いに報告を終えてクーが唐突に切り出した。

「何をだ?」

64 名前:(・へ・) 投稿日:2006/11/13(月) 22:45:00.96 id:e68qkRWc0
「ドクオ君がブーンを慰めようとしたのを止めたそうじゃないか。」

「あぁ。」

 はっきりとした拒絶の意思表示があったあの事か。

「その話をした時に…ツン、少し泣いてたようだ。」

「な、なんでだ?」

「………聞いても、怒らないか?」

 嫌な予感がした。

65 名前:(・へ・) 投稿日:2006/11/13(月) 22:45:51.07 id:e68qkRWc0
「又聞きになるからどこか解釈の仕方を誤っているかもしれないが」

 そう前置きしてクーは語り始めた。
ほぼ同時に乗る予定だった電車がホームに滑り込んできた。
ゲロのように人が吐き出され、また狭苦しい車内に人が飲み込まれていくのを
遠めに見て、俺はクーの言葉に耳を傾ける。

66 名前:(・へ・) 投稿日:2006/11/13(月) 22:46:26.24 id:e68qkRWc0
「プライドの高いブーンの事だから色んな意味で
 後輩である君に慰められるのは耐えられないと
 思ったんだろう。
 だから、ツンは君を止めたんだ。」

 遠まわしに…多分、クーなりに気を遣って
言ってくれたのだろうがそれでも…息をする事さえ
忘れるほどにショックだった。


67 名前:(・へ・) 投稿日:2006/11/13(月) 22:47:36.85 id:e68qkRWc0
 そりゃあ確かにそうだ。
ブーンはちょっと名の知れた企業の技術主任様で
実力も人望も桁違いに高い。
対して俺は中小企業の平社員で技術も実績も人望も
まだまだ足りていない若輩者だ。

 だけど、それは酷いな、と思う。
いつからか思っていた。
ブーンが困ったときには、今までの恩返しも兼ねて俺が
あいつの力になるんだと。
少なからず、同じような仕事に就いているだけに
それくらいの力はあるんだと、思っていた。

68 名前:(・へ・) 投稿日:2006/11/13(月) 22:48:13.74 id:e68qkRWc0
 だから………
こんな時だからこそ頼ったっていいじゃねぇか。
溺れるものは藁をも掴むって言うだろ?
俺じゃ藁ほどの役にも立たないってか?

「もしもし?ドクオ君。もしもし?」

「あー、聞こえてるよ。」

 声は大丈夫。震えていない。
だけど目から零れるものだけはどうしても
止められなかった。

69 名前:(・へ・) 投稿日:2006/11/13(月) 22:48:58.32 id:e68qkRWc0
「悪い、今から電車に乗るから一旦切るぜ?」

 返事を待たずに通話を切る。
次の電車が来るまでは、まだまだ時間があった。

 時に夏の終わりのある日の夜。

 俺はこの日、自分の矮小さを…友人達から見た
俺という人間の価値が垣間見えたような気がした。

返信2006/11/15 11:21:48

6jigendaddyjigendaddy   ('A`)ドクオが生きるという事について考えるようです-6

120 名前:(・へ・) 投稿日:2006/11/15(水) 01:07:59.94 id:JNA4AI+U0
 日常は個人の感傷などおかまいなしに回っていく。
翌日、俺はいつもと同じように会社に出社した。


「おや、ドクオ君。
 今日は何だか顔色が悪いねぇ。」

 朝礼の後、仕事の報告書を持って行くと上司は
俺の顔を見るや否やそう言った。

121 名前:(・へ・) 投稿日:2006/11/15(水) 01:08:32.29 id:JNA4AI+U0
「そ、そんな事はないっすよ。」

「ふーん、まぁいいけど。
 仕事、遅れが出てるみたいだけど
 頑張ってね。」

 上司との会話はそれで終わり、自分の席につく。

122 名前:(・へ・) 投稿日:2006/11/15(水) 01:09:16.45 id:JNA4AI+U0
 そんなに昨日の事が顔に出てるのか?


―プライドの高いブーンの事だから色んな意味で
 後輩である君に慰められるのは耐えられないと
 思ったんだろう。
 だから、ツンは君を止めたんだ。

 クーに言われた言葉が頭の中に反芻する。




124 名前:(・へ・) 投稿日:2006/11/15(水) 01:10:34.83 id:JNA4AI+U0
「よーう、ドクオ。
 上司に何か言われたんか?」

 パーティションで区切られた隣の席の同僚ジョルジュが
ニヤニヤと笑いながら声を掛けてきた。

「俺の顔が疲れてるように見えるってさ。」

「ははは、ドクオは疲れてるように見えるのがデフォルトなのにな!
 上司も分かってねーぜ!」

 ジョルジュはそう言ってカラカラと笑う。
俺もぎこちなく笑い返す。


125 名前:(・へ・) 投稿日:2006/11/15(水) 01:11:15.38 id:JNA4AI+U0
「ふーん、本当に疲れてるみたいだな。
 そんなに疲れてるんならこれ、やってみるか?」

 机の引き出しから18と書かれたシールの張られたパッケージを取り出す。
いわゆる肌色の多いゲーム、ぶっちゃけエロゲーだ。

「これはいいぞー。
 やったらマジで元気出るって!おっぱいおっぱい!」

 片手をぶんぶんと振りながら、俺の手に無理やりエロゲを持たせる。


「まぁ何か嫌な事があっても、エロゲやってメシ食って寝れば俺は
 忘れられるからな。お前もやってみろって。」

 ジョルジュなりに心配してくれているのだろうか。
さり気無い気遣いが嬉しかった。



126 名前:(・へ・) 投稿日:2006/11/15(水) 01:11:56.14 id:JNA4AI+U0

 昨日の事は確実に響いているようだった。
プライベートの悩みを仕事に出すわけにはいかないと思いつつ、
作業に望むが、仕事の効率は全く上がらない。

 集中しようとすると次々と嫌な事を思い出し、
考えが阻害されるような澱みを感じる。


 結局、定時を過ぎて日が変わっても一日の目標を達成出来なかった。

127 名前:(・へ・) 投稿日:2006/11/15(水) 01:13:18.20 id:JNA4AI+U0
「くそッ!」

 ついつい苛立ってキーボードを強く叩く。
思いの外音が大きかったが既にフロアには俺しか居ない。
音を気にする必要はなかった。

 人気のないフロアで俺はため息を漏らす。
苛立ちと不安が次々と心を駆り立てて
目から一つ、涙が零れた。

128 名前:(・へ・) 投稿日:2006/11/15(水) 01:14:09.82 id:JNA4AI+U0
-------------------------------------------

 深夜2時を過ぎて家に帰り着く。
シャワーを浴びて遅めの軽い夕食を取り、布団に入る。
明日、取り戻さなければならない作業量を布団の中で考えて眩暈がした。

―まぁ、それでもブーンの仕事に比べたら屁みたいなもんだよな。

 そう考えると、安心出来た。
………何故安心出来たのかは、よく分からなかったが…。

129 名前:(・へ・) 投稿日:2006/11/15(水) 01:15:09.61 id:JNA4AI+U0


 うとうととし始めた深夜3時過ぎ。
不意に携帯が鳴り出した。
迷惑電話か、と心の中で悪態を突きながら携帯のディスプレイを見る。

 ディスプレイにはブーンの名前が表示されていた。
慌てて通話ボタンを押す。

130 名前:(・へ・) 投稿日:2006/11/15(水) 01:16:04.02 id:JNA4AI+U0
「ドクオ、夜分遅くにすまないお。」


 ブーンの声は昨日より、いくらか明るくて少し、ホッとした。

「あ、あぁ。どうしたんだよ?」

「ちょっと相談があるんだけど、いいかお?」

「え?」


 ブーンの急な申し出を脳が理解するのには数瞬かかった。
そして、脳がそれを理解した時、心が激しく躍り、
俺は深夜にも関わらず近所迷惑なほど明るく大きな声で返事を返した。

「お、おう!
 何でも相談に乗るぜ!」

「ありがとうだお。」

131 名前:(・へ・) 投稿日:2006/11/15(水) 01:17:02.77 id:JNA4AI+U0
 ブーンが次の言葉を発するまでには少し、間があった。
そして、わずかな間の後、突然、こう切り出した。


「これから死のうと思うんだお。」




132 名前:(・へ・) 投稿日:2006/11/15(水) 01:18:01.91 id:JNA4AI+U0
 背筋に悪寒が走る。
こいつ、何を言ってるんだ?
いや、今のは俺の聞き間違いかも知れない。

 しかし、そんな哀れな希望的観測はブーンの言葉によって打ち砕かれた。

「懲戒免職を食らった今、ブーンには生きる意味がないお。
 だから、死のうと思うんだお。
 ドクオ、何か死に方知らないかお?」

134 名前:(・へ・) 投稿日:2006/11/15(水) 01:18:47.43 id:JNA4AI+U0

 それから二時間余り。
ブーンの恨みつらみを聞かされた。
会社がどうのと、プロジェクトがどうのと。

 分かってるよ。
お前の会社が悪いって事も、そのプロジェクトが最悪だったって事も。
別にその愚痴を聞くくらい全然構わないさ。
むしろ、今まで俺がお前に愚痴聞いてもらってたくらいだもんな。


135 名前:(・へ・) 投稿日:2006/11/15(水) 01:22:05.24 id:JNA4AI+U0
 だけど一つ分からない。
どうして、お前が”死ぬ”なんて俺に言い出したのか。
死に方について相談に乗ってくれなんて言ったのか………。

 昨日、ツンから話を聞いていた時には心のどこかで
ブーンが自殺未遂をしたという事を信じていなかった。
もしかしたらそんな事もあったかも知れないが、それでも
ブーンはすぐに立ち直って、俺はブーンが死のうとした事なんて
微塵も感じないで済むと思ってた。

 だから、信じたくなかった現実を急に突きつけられて
俺はただ、心の中でのた打ち回るしかなかった。

138 名前:(・へ・) 投稿日:2006/11/15(水) 01:24:29.43 id:JNA4AI+U0
 どうにかブーンをなだめて、死ぬな、死ぬなと繰り返す。
壊れたテープレコーダーのように、俺はただその言葉を
繰り返すしかなかった。

「まだ今は死なないお」

 曖昧な約束一つを取り付けて二時間に及んだ”相談”は終わりを迎えた。

 新聞配達のバイクの音が耳に入り、時計を見る。
時刻は午前4時。
窓の外から見えた空が白みがかっていた。

返信2006/11/16 09:31:58

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返信2006/11/16 09:32:29

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150 名前:(・へ・) 投稿日:2006/11/15(水) 02:38:44.47 id:JNA4AI+U0
 ある程度、覚悟はしていたが仕事は驚くほど進まなかった。
心にダメージがあるとこれほどに作業効率が落ちるものなんだと
思い知らされた。

「おいおい、ドクオ。
 マジで顔悪いぜ。大丈夫か?
 エロゲやったか?」


151 名前:(・へ・) 投稿日:2006/11/15(水) 02:39:33.86 id:JNA4AI+U0

 昨日よりいくらか心配そうな表情でジョルジュが俺の身を気遣ってくれた。
一言、大丈夫と返事をする。
ジョルジュは納得した様子ではなかったが、これ以上追及する事もしなかった。
お互いの深いところに踏み込まないのが俺たちの暗黙のルールだった。
だからこそ、俺とジョルジュはそれなりにうまくやっていけてると思うし
俺もジョルジュのそういう所を好ましく思っている。



152 名前:(・へ・) 投稿日:2006/11/15(水) 02:40:18.37 id:JNA4AI+U0



 その日一日の仕事の進みはとにかく最悪の一言だった。
上司には疲れが溜まってるなら早く帰りなさい、と言われる始末で
俺はお言葉に甘えていつもより早めに帰宅する事にした。


153 名前:(・へ・) 投稿日:2006/11/15(水) 02:40:52.61 id:JNA4AI+U0
 帰宅後、暇をもてあまし洗濯を始めたり風呂の掃除をして
気を紛らわせようとしたが、何故か落ち着かない。

 散々迷って躊躇したが、俺はクーに電話をかける事にした。
昨日のブーンの事について、少し話を聞いて欲しかった。

154 名前:(・へ・) 投稿日:2006/11/15(水) 02:41:41.29 id:JNA4AI+U0

「クー?今、電話大丈夫か?」

「何かあったのか?」

「あぁ、昨日な…ブーンから電話があったんだ。」

 どこからどこまで話すべきか悩んだ。
だが………包み隠さず、全部を話すことにした。
ブーンが悩み、死にたいと言い出したこと、
自殺方法について相談を持ち掛けてきたことを全て。


155 名前:(・へ・) 投稿日:2006/11/15(水) 02:42:26.73 id:JNA4AI+U0
 俺が話し終えると小さなうめき声が聞こえてきた。
困ったときにクーがよく発する声だ。
きっとクーは電話の向こうで神妙そうな顔をして
この小さなうめき声を出しているのだろう。
 クーに申し訳ないと思う気持ちを感じた。



「話は、分かったよ。
 大変だったな。」

 僅かな沈黙の後、明らかに狼狽した口調でクーは慰めの言葉をくれた。


156 名前:(・へ・) 投稿日:2006/11/15(水) 02:43:00.56 id:JNA4AI+U0
「こっちこそ、悪かったな。
 身内の事で話せる相手が他に居なくてさ。」

「別に構わないよ。」


 そしてまた僅かな沈黙。
ここまでクーと会話が続かないのも珍しかった。

 それもそうだ。
話題があまりにも重過ぎる。

157 名前:(・へ・) 投稿日:2006/11/15(水) 02:43:52.28 id:JNA4AI+U0
「ツンには連絡したか?」

 沈黙を破ってくれたのはさっきと同じくクーだった。



158 名前:(・へ・) 投稿日:2006/11/15(水) 02:44:42.11 id:JNA4AI+U0
「ツンに?
 いや、連絡してないけど。」

「そうか………。
 ドクオ君。
 ツンに、電話してやってくれないか?」

「なんだよ、いきなり?」

「実を言うとな。
 昨日ツンから電話があったんだ。」

「ツンから?
 どんな話だったんだ?」

「…いや、話を聞く前に”やっぱりいい”と言ってな。
 そのまま電話を切られた。」

多分、と言いながらクーが言葉をつなげる。

159 名前:(・へ・) 投稿日:2006/11/15(水) 02:45:13.11 id:JNA4AI+U0

「ツンにもツンで、私には言いたくない事があるんじゃないかと思うんだ。」

「そういうもんなのか?」

「女には女で色々とあるんだ。」


 知らなかった。
…というより信じられなかった。
傍から見てこの上なく仲良く見える二人にも、壁があったという事に。

161 名前:(・へ・) 投稿日:2006/11/15(水) 03:03:47.85 id:JNA4AI+U0
 だが、考えてみれば確かにそういうものかもしれない。
ジョルジュと俺との関係だってそうだ。
普段から行動を共にしていて、少なくとも上司達から見て
いい仕事仲間に見える俺達の間にだって、話すことの出来ない悩み事があるように………
仲がいいからこそ、話せない事があったってそれは何もおかしいことじゃない。

 だけど……

「お前に話せないような事を、ツンが俺に話してくれるのか?」


返信2006/11/16 09:33:06

9jigendaddyjigendaddy   ('A`)ドクオが生きるという事について考えるようです-8

162 名前:(・へ・) 投稿日:2006/11/15(水) 03:04:22.98 id:JNA4AI+U0

「………何度も言わせないでくれ。
 女には女で色々とあるんだ。
 私より、君の方が適任だよ。」

 真意を濁した言い方だったが、確かにそこまで言われて
思い当たる事もあった。

163 名前:(・へ・) 投稿日:2006/11/15(水) 03:05:54.40 id:JNA4AI+U0
「分かったよ。電話してみる。」

「ありがとう。
 よろしく頼む。」


 クーとの電話を切り、すぐにツンの携帯に電話をかける。

「もしもし、ツン?」

「あぁ、ドクオ。
 ………どうかした?」

「今、話しても大丈夫か?」

「うん、大丈夫だよ。」

 そのとき、電話の向こうでブーンの声が聞こえた。
電話口を押さえているからか断片的にしか聞こえてこなかったが
二人が言い争っているように聞こえた。

164 名前:(・へ・) 投稿日:2006/11/15(水) 03:06:52.31 id:JNA4AI+U0
「ごめん、ちょっと今は手が空いてなくて…。
 また後で電話するから。」

 俺の返事を待たずにツンは電話を切り、
ツーツーという無機質な音だけが残された。


 いつツンから電話があっても大丈夫なように携帯の前から
目を離さないように心がけていたが、一向にツンからの電話は来ない。

165 名前:(・へ・) 投稿日:2006/11/15(水) 03:07:20.67 id:JNA4AI+U0
 深夜2時を過ぎ、さすがに今日は連絡はこないかと思い、
布団を敷き始めた時、携帯がけたたましく鳴った。

 携帯のディスプレイには公衆電話の表示。


「もしもしドクオ?
 夜遅くにごめんね。」

 声の主はツンだった。

166 名前:(・へ・) 投稿日:2006/11/15(水) 03:07:59.61 id:JNA4AI+U0
「あ、あぁ。
 なんで公衆電話からかけてるんだ?」

「ブーンに聞かれると、また………殴られるから。」

「は?」


 わけがわからなかった。
だが、ここ数日、異常な話を聞かされる事については
耐性が出来てきたのか、その言葉の意味は意外にすぐに飲み込めた。

167 名前:(・へ・) 投稿日:2006/11/15(水) 03:08:31.04 id:JNA4AI+U0
 DV…家庭内暴力というやつだ。

 それでも、事態は飲みこめても、あのブーンがツンに
暴力を振るうというのが信じられなかった。


「ブーンに、暴力振るわれたのか?」

 単刀直入にたずねる。
すぐに、うん。と一言返事が返ってくる。

「怪我とかしてないか?」

「大丈夫。」


 力なく、囁くように答えるツンは電話口に聞いても
大丈夫そうではなかった。
身体というよりも、心の方が………とても、大丈夫とは思えなかった。


168 名前:(・へ・) 投稿日:2006/11/15(水) 03:09:29.81 id:JNA4AI+U0



「ねぇ、ドクオ………」

「なんだ?」

「今度の土曜日と日曜日、こっちに来られる?」

「何だ?急用か?」

「ブーンがね、土曜日は家に帰ってこないの。
 仕事の後片付けと本社にもっていかないと
 いけないものがあるらしくて………。」

「俺に何か用でもあるのか?」

 仕事が詰まってるんだが、と言いたかったが
それは言わずに喉の奥にしまいこんだ。

「用ってほどの事じゃないんだけどね………」

169 名前:(・へ・) 投稿日:2006/11/15(水) 03:10:03.00 id:JNA4AI+U0




「………ドクオに、会いたい。」




返信2006/11/16 09:33:42

10jigendaddyjigendaddy   ('A`)ドクオが生きるという事について考えるようです-9

201 名前:(・へ・) 投稿日:2006/11/15(水) 23:11:33.29 id:JNA4AI+U0
「次の土曜、日曜は休みます。」

 朝礼後、上司に土日を休む旨を伝える。

「なんだって!?」

 いささか大げさに驚く上司だったが、それも無理はない。
土日をフルに休むなんてこの会社のこの部署では相当な事なのだから。

「お、おい!ドクオ!
 マジで何かあったんか!?」


202 名前:(・へ・) 投稿日:2006/11/15(水) 23:12:03.06 id:JNA4AI+U0
 少し離れた席にいたジョルジュにも聞こえたらしく
ひどく心配そうな顔で俺を気遣ってくれた。

 しかし…よくよく考えてみると変な話だ。
土日休むって言っただけでここまで心配されるのも
どうだろうと思う。


204 名前:(・へ・) 投稿日:2006/11/15(水) 23:13:03.96 id:JNA4AI+U0

”変わった仕事だから、身体には気を遣わないといけないお。”

いつだったか、ブーンに言われた警告が脳裏を過ぎった。
全くだ。

でも、それを言った本人が俺より先に身体を壊したんじゃ世話ないぜ。


205 名前:(・へ・) 投稿日:2006/11/15(水) 23:13:38.78 id:JNA4AI+U0

 空回り気味に猛然と平日は仕事に取り組み、瞬く間に休日の朝を迎えた。
いつもなら昼過ぎまで休んでいられる休日にも関わらず
朝5時に起きて身支度を整える。

206 名前:(・へ・) 投稿日:2006/11/15(水) 23:14:25.59 id:JNA4AI+U0
 ローカル線の始発に乗って、少し発展した街で新幹線に乗り継ぐ。
滑り込むように乗り込んだ新幹線に乗っている客はまばらで
適当に空いている席を見つけて、煙草の匂いが染み付いたシートに身を委ねて
安っぽい駅弁を食べて腹ごしらえする。


”しかし…一週間足らずでこうも頻繁に新幹線に乗る事になるとは思わなかったな。”

 目まぐるしく通り過ぎる景色を窓越しに見送りながら、ふと思った。


208 名前:(・へ・) 投稿日:2006/11/15(水) 23:17:08.18 id:JNA4AI+U0
予定通り朝の8時過ぎにはツンとブーンの住む都内へ辿りついた。

駅弁の箱をホームのゴミ箱に投げ入れて携帯を開く。
ここからツンからのメールに書かれた待ち合わせ場所へ
向かわなければならない。
携帯ディスプレイに映るメール内容を何度も確認して都内の電車を乗り継ぐ。


209 名前:(・へ・) 投稿日:2006/11/15(水) 23:20:48.02 id:JNA4AI+U0
 程なくして指定された駅へたどり着く。
休日の朝早くだと言うのに異常に人の多い車内を抜け出して
改札口の機械に切符を入れて駅の外へ出る。

 人でごった返す繁華街。
ここがツンが待ち合わせに指定した場所だった。
以前、ブーンの見舞いに来た時も思ったが、今住んでいる場所が
田舎なだけにこれだけの人が目まぐるしく歩いている様を見ると
人の波に酔いそうになる。

210 名前:(・へ・) 投稿日:2006/11/15(水) 23:24:19.24 id:JNA4AI+U0
 空がやけに狭い都会の街並みを見て思った。
ブーンはこんなにもたくさんの人がいる都市で働いていたんだと。
誰もが誰も、みな距離を取って接しているように見える
無機質な都会で、一人劣悪の仕事を押し付けられて働いていたんだと。


211 名前:(・へ・) 投稿日:2006/11/15(水) 23:25:57.92 id:JNA4AI+U0

 駅前でアンケートを求める女性がいた。
誰も話を聞こうともしない。

 外国人らしい風貌の男がアクセサリーを売りつけようと
通りかかる人に話しかける。
ほとんどの人が相手をしない。

 笑顔を顔に貼り付けて話しかける人と話しかけられる人。
そんな彼らの物理的な距離はとても近く見えたけれど
その心は遠く離れている。そんな気がした。

返信2006/11/16 09:34:15

11jigendaddyjigendaddy   ('A`)ドクオが生きるという事について考えるようです-10

213 名前:(・へ・) 投稿日:2006/11/15(水) 23:31:00.08 id:JNA4AI+U0
 そんな事を考えている俺の肩に誰かの手が触れた。
振り返ると見慣れた微笑みを湛えた優しい顔があった。

「ツン……。」

「急に呼び出しちゃってごめんね。」



216 名前:(・へ・) 投稿日:2006/11/16(木) 00:00:15.86 id:MtY97iY70
 一週間ぶりに見たツンは、疲れているように見えた。
表情は至って穏やかだが、その声に疲れを持っているように感じた。
無理もないか………。


「あぁ、別にいいよ。
 で、今日はどうするんだ?」

俺は無理に明るく振舞う。
ツンも察してくれたのか、さっきよりも明るい声で答えてくれた。


218 名前:(・へ・) 投稿日:2006/11/16(木) 00:05:20.84 id:MtY97iY70


 喫茶店で他愛もない話をして、
 繁華街でツンの服選びに付き合わされて
 ちょっと洒落たつくりの店で昼食を食べて
 また、ツンの買い物に付き合わされて………

 嫌なことから逃げ出すように、二人で学生の頃のように楽しく過ごした。
ブーンの事は一切話題に出さずに、ただ今目の前にある二人だけの時間を満喫した。
ツンの屈託のない笑顔を見る度に、嬉しくなったが
それと同時に横たわっている現実問題を放置している事に気付かされて心が濁る。

221 名前:(・へ・) 投稿日:2006/11/16(木) 00:10:05.19 id:MtY97iY70

 日中を楽しく過ごした後、俺達はツンの家の近くのスーパーで
夕食の材料を買い込んだ。
俺のようなずぼらな人間の一人暮らしではお目にかかれない
ちょっとした凝った食材を袋に入れて店を出る。

店を出て信号待ちをしているとツンが呟いた。

「今日は、久しぶりに楽しかった。」

夕焼け色に染まるツンの横顔はどこか寂しげだった。

―――陽は既に落ちかけていた。

222 名前:(・へ・) 投稿日:2006/11/16(木) 00:13:05.72 id:MtY97iY70
 案内されるままにツンの家に招かれ、
始めて見る三人で暮らすのにも問題のない手広い部屋に
ツンとブーンの生活の匂いを感じた。

「いい部屋だな。」

 正直な意見を述べる。

 そこでいくつかおかしな所を見つけた。
所々の壁に何かがぶつかった、あるいは何かをぶつけた跡があった。
これが何かを頭が理解するより先にツンが別の話題を持ち出して遮る。

223 名前:(・へ・) 投稿日:2006/11/16(木) 00:13:41.84 id:MtY97iY70

「ブーンもね、この部屋を見つけた時には褒めてくれたんだ。」

「あぁ、じゃあこの部屋はツンが見つけたんだ?」

「ブーンってさ、生活の事には無頓着じゃない。
 だから、家探すのも全部私に任せっきりで困ったわよ。」


224 名前:(・へ・) 投稿日:2006/11/16(木) 00:14:16.06 id:MtY97iY70
 生活のことには無頓着…か。
仕事にのみ生きて、技術を高める事に異常なまでの執着心を持つが
そのくせ、食生活を始めとした生活的な事には興味を示さない。
忙しい時期に躊躇なく会社の床で寝るブーンにこれ以上なくしっくりくる言葉だ。
かく言う俺も、ブーンから床で寝るという事とそのコツを伝授されたわけだが…。

「ブーンらしいな。」

「そうでしょ。本当に、困った人なんだから。」

226 名前:(・へ・) 投稿日:2006/11/16(木) 00:19:13.55 id:MtY97iY70
 適当に会話を交わした後、俺はツンと一緒に夕食を作り始めた。
といっても、俺は適当に食材を切るとか洗ったりするくらいで
手伝いと呼べるかも怪しいくらいしか活躍できなかったが。

 それでも、キッチンに二人並んで曲りなりにも一緒に料理を
作るというのはどこか不思議な感じがした。

227 名前:(・へ・) 投稿日:2006/11/16(木) 00:23:01.19 id:MtY97iY70


 が、しかし料理初心者が出来る手伝いなんてあっという間に無くなった。
手伝えることが無くなるとツンに適当に寛いで待つように促され、
仕方なくテーブルの椅子に腰掛けた。
ツンが料理をする音と良い匂いが俺の食欲を刺激し、盛大に腹の虫が鳴る。
その音にツンは笑いながら、もう少しかかるから待っててと返事を返す。

 手持ち無沙汰になった俺はブーンの部屋にお邪魔した。
本棚に並べられた技術書に目を通す。
付箋が随所に貼られ、自分なりの解釈をメモにして本の中に惜しげなく
書き記されていた。

228 名前:(・へ・) 投稿日:2006/11/16(木) 00:27:29.64 id:MtY97iY70
 ビッシリとメモが記され、付箋まみれになっている技術書と
似たような状態になっている他の本を見て、一種の”職人”として
仕事をしている俺とブーンの差の一片を感じた。


「ドクオ、晩御飯の用意出来たわよ。」

 ツンのよく透る声が聞こえて、またしても腹の虫が盛大に鳴き始めた。
技術書を本棚に返して、ツンと料理の待つダイニングへ向かう。

231 名前:(・へ・) 投稿日:2006/11/16(木) 01:00:38.01 id:MtY97iY70


 ツンの料理は昔、何度か食わせてもらった事があったが
あの時よりも遥かに美味いと思った。
昔食べた食べ物には思い出補正がかかるものだが、
それを超えるほどに美味い料理だった。

「美味いな。」

「褒めても何もでないわよ。」

 ツンは悪戯っぽく微笑む。
 俺もつられて笑った。

232 名前:(・へ・) 投稿日:2006/11/16(木) 01:03:01.68 id:MtY97iY70
 食事を終えて後片付けも一段落ついてツンが淹れてくれたコーヒーを飲む。
未だ、ツンの両親に預けられているブーンとツンの娘の事や
ほんの少し込み入ったブーンとツンのこれからの事について話し合った。

 と言っても、そこになんら具体性はなくこれからどのようにしていくのが
ベストか、という曖昧な事を決める程度の話し合いに過ぎなかったが
それでも俺は脳をフル活動させて考え得る提案を搾り出すようにツンに伝えた。

返信2006/11/16 09:35:05

12jigendaddyjigendaddy   ('A`)ドクオが生きるという事について考えるようです-11

233 名前:(・へ・) 投稿日:2006/11/16(木) 01:03:36.70 id:MtY97iY70
 話が途切れた所で、壁にかけられた時計がふと視界に入った。
ツンも俺のその視線の先に気付いたのか時計の方に振り返る。
時刻は夜の八時を示していた。


「今日は泊まっていく?」

唐突にツンが切り出した。

234 名前:(・へ・) 投稿日:2006/11/16(木) 01:04:47.68 id:MtY97iY70
「いや、まだ今なら電車、間に合うけど…。」

そう返事をした途端、ツンの表情が暗くなったような気がした。

「ツン?」

ツンは何も言わずに席を立ち、静かに俺に歩み寄ってくる。

表情の読めないツンに少し困惑しながら、俺は何故か身構えた。

235 名前:(・へ・) 投稿日:2006/11/16(木) 01:06:18.14 id:MtY97iY70

「ツン、何を…?」

 ツンが俺の両肩にそれぞれ手を置いて、そして唇が重なった。
一瞬の出来事だった。

 一度唇が離れて、また触れ合う。
それはとても、濃厚で激しかった。



236 名前:(・へ・) 投稿日:2006/11/16(木) 01:07:37.08 id:MtY97iY70


 唇が離れて、お互いに距離が生まれた。
困惑しながら見つめたツンの顔は今にも壊れそうな悲しげな表情をしながら……笑っていた。

どこか自虐的で、湿っぽい見るに耐えない笑顔………




239 名前:(・へ・) 投稿日:2006/11/16(木) 01:09:58.76 id:MtY97iY70

その表情を宿したままにツンは俺の手を静かに取る。

ツンの手に導かれるままに這わせた手がツンの胸の感触を脳に伝えて
俺の中の理性を次々と破壊していく。

その感触に高揚感を感じた。
その表情に恐怖心が芽生えた。



240 名前:(・へ・) 投稿日:2006/11/16(木) 01:10:58.97 id:MtY97iY70




 自ら服を脱ぎ始めるツンを止める事も出来ずに、ただ受動的に
事の成り行きを見つめながら待ち続ける。
ふさり、と柔らかい音がしてツンの肌が次々と露になっていく。

初めて見たツンの身体は傷だらけだった。
自傷によるものなのか、ブーンにやられたものなのか。
判断に困るような、それほどに深い傷跡。

241 名前:(・へ・) 投稿日:2006/11/16(木) 01:11:44.50 id:MtY97iY70
「嫌な跡がいっぱい残っちゃった。
 嫁入り後で、本当に良かったなぁって思ってる。」

 22年間の人生の中で、それは見た事のない表情だった。
ケラケラと笑いながら涙を流しがら諦めたような
たくさんの感情がない交ぜになったとても歪で痛ましい顔。
壊れた人が見せる表情、とそれを見て思った。



242 名前:(・へ・) 投稿日:2006/11/16(木) 01:12:09.62 id:MtY97iY70

”………それでも……”

 一つの言葉が喉に出掛かる。
瞬間、理性が次々と警鐘を鳴らす。



248 名前:(・へ・) 投稿日:2006/11/16(木) 02:00:20.24 id:MtY97iY70


―――それを声にするな。
―――口にするな。
―――言葉にするな。



「………それでも……」

―――戻れなくなるぞ。

「それでも、綺麗だ。」

 理性の声は届かなかった。
理性は失われて、代わりに欲望が湧き上がる。


249 名前:(・へ・) 投稿日:2006/11/16(木) 02:01:28.55 id:MtY97iY70
 ツンは両手を俺に差し向けてこれから来る”何か”を優しく
抱きしめるように微笑んでいた。
若しくは、泣いていたか。
よく覚えていない。
 ツンの両手に俺の両手を重ねた時点で、俺の記憶は
飛んだ。全ては本能の任せるままになった。




 俺は ただ ツンを 貪った。






250 名前:(・へ・) 投稿日:2006/11/16(木) 02:02:05.75 id:MtY97iY70



―――


―――――


―――――――

 身体と心が急速に冷えていく。



「初めてだった?」

 俺の腕を枕にしてツンが囁く。

「あぁ……。」



 尊敬していた親友の妻で筆卸し………笑えない話だ。
欲望を一しきり吐き出してから、俺はどうしようもない
罪悪感と虚無感に襲われた。

251 名前:(・へ・) 投稿日:2006/11/16(木) 02:03:42.59 id:MtY97iY70

ツンは本当に巧かった。
初めてでも分かる。
それだけの経験を積んできたのだろう。
そう。ブーンと一緒に………。


253 名前:(・へ・) 投稿日:2006/11/16(木) 02:04:31.64 id:MtY97iY70


「そこのライター、取ってくれる?」

 ツンの片手には小さな紙の箱があった。
それが煙草の箱だと理解するのには僅かな時間がかかった。

「煙草、吸うようになったんだ?」

 ライターを手渡す。
煙草に火をつけてツンはまた自虐的な笑みを見せて言った。

「煙草吸う女は嫌いだったっけ?」

255 名前:(・へ・) 投稿日:2006/11/16(木) 02:06:39.06 id:MtY97iY70
 さっきよりはいくらか感情の整った様子で悪戯っぽく微笑みながら
ツンは煙草を咥える。
ただ、煙草を吸っているだけなのに、どこかツンが違う人のように見えた。

 ツンの吐き出す煙草の煙は昇天するように天井へ吸い込まれるように
昇り消えていく。その独特な匂いを部屋に残しながら………。


「…ドクオも吸う?」

「あぁ、貰うよ。」

 ツンは箱から一本煙草を取り出して俺の口に入れてくれた。

256 名前:(・へ・) 投稿日:2006/11/16(木) 02:07:20.42 id:MtY97iY70
 何かの映画か何かで見たように、ツンが咥えている煙草の先に
顔を動かして煙草を運ぶ。


「ねぇ、ドクオ。」


煙草越しにキスするように。


「聞いてくれる?」


そして火を点す。



257 名前:(・へ・) 投稿日:2006/11/16(木) 02:08:10.93 id:MtY97iY70


「一緒に死なない?」


 口の中に広がる煙。
その銘柄はピース。
この煙の匂いに、俺はツンの感触と匂いを刻み込んだ。



返信2006/11/16 09:35:43

13jigendaddyjigendaddy   ('A`)ドクオが生きるという事について考えるようです-12

http://ex17.2ch.net/test/read.cgi/news4vip/1163683883/

2 名前:(・へ・) 投稿日:2006/11/16(木) 22:32:40.78 id:MtY97iY70

 明けない夜はない、と誰かが言っていた。
例え、それがどんなに罪深い夜で、人生においての
価値観を大きく変えるものであろうとも朝は必ず訪れる。
俺にも例外なく、長い夜は明けて朝はやって来た。


目を覚ますと嗅ぎなれない部屋の匂いがして、
次いで見慣れない光景が目に映った。
意識はやけにはっきりしていてここがどこなのかはすぐに分かった。

 ツンとブーンとその娘が住んでいた家だ。


4 名前:(・へ・) 投稿日:2006/11/16(木) 22:34:57.90 id:MtY97iY70
 傍らにツンの姿は無かった。
ゆっくりと身を起こして間抜けに部屋の辺りを見渡す。
台所の方から料理をする音が聞こえて食欲をそそる
玉子料理らしいものの匂いが漂ってくる。


「おはよう。」

 台所に顔を出すとツンはいつもと同じ優しい表情で朝食の準備をしていた。

「あぁ、おはよう。」

挨拶を返し、テーブルに腰掛ける。
ツンがコーヒーと新聞を運んでくれた。

5 名前:(・へ・) 投稿日:2006/11/16(木) 22:35:49.18 id:MtY97iY70

「ん?新聞?」

「ドクオ、新聞読んでないの?」

「あぁ。」

 一人暮らしをしているから、というのは言い訳になるが
俺は普段から新聞を読まない。
ライブドア事件にせよ、首相が変わったと言われても
ナニソレ?と返す社会の流れに疎い人間はこうして生まれたわけだ。

「新聞くらいは読んで世間の流れを把握しとかなきゃね。」

 ツンは俺の額を軽く人差し指で突付き、クスクスと笑う。
ブラック派の俺には少し甘めのツンが淹れてくれたコーヒーを
すすりながら何の気なく新聞を眺める。
そう言えば、新聞を見るのもどれだけぶりだろうか。
少なくとも一年と少しは新聞なんて見向きもしなかった。

6 名前:(・へ・) 投稿日:2006/11/16(木) 22:36:32.27 id:MtY97iY70

「なぁ。」

「なぁに?」

 料理をする手を止めず、背を向けたままツンが返事をする。

「ブーンってさ、毎朝新聞読んでたか?」

 キュッと蛇口を回して水を止め、

「その日によりけりかな。
 早起きした日には読んでたけど
 遅めに起きだした時は読んでなかった。」

食器棚からお椀と少し大きめの皿を取り出しながら答えてくれた。

「そっか。」

少し気のない返事を返して新聞をテーブルに置いてツンの手伝いをする。

「ありがとう。」

 綺麗な笑顔だったが、何故かツンを直視出来なかった。

7 名前:(・へ・) 投稿日:2006/11/16(木) 22:39:14.46 id:MtY97iY70
テーブルの上には炊き立てのご飯が惜しげなく盛られたお椀に
ちょうどいい味と色加減の味噌汁、きゅうりの漬物、
玉子焼きにウインナーがそれぞれ皿に盛られて並べられていた。
程よい色のバランスで彩られたテーブルに並べられた食べ物は
視覚的にも嗅覚的にも空腹感を刺激するのに充分なものだった。

いただきます、と手を合わせて、炊きたてのご飯を頬張る。
とても美味かった。

そういえば家庭的な朝食なんて何年ぶりだろうか。
親元を離れて一人暮らしをする俺は会社の途中にある
田舎っぽいニセモノコンビニで適当な菓子パンを買い漁って
会社の自分の席で食べるのがいつもの俺の朝食だった。


8 名前:(・へ・) 投稿日:2006/11/16(木) 22:39:56.04 id:MtY97iY70

「おいしい?」

ツンが頬杖をつきながら問いかけてくる。

「うまいよ。」

率直な感想を述べる。
ツンは嬉しそうに笑って、俺も笑い返す。
ツンの笑顔を出来るだけ直視しないように。



9 名前:(・へ・) 投稿日:2006/11/16(木) 22:41:06.77 id:MtY97iY70
 外から車の音や子供達のはしゃぎ回る声が聞こえて
ふと、今日が日曜日なのだと言う事に気付かされた。
いやに賑やかな外に対してこの部屋の中はとても静かだった。

 ツンが洗い物をする音と時計の音。
俺がお茶を啜る音がたまに聞こえて………
聞こえる音はそれだけで、とにかく、その部屋の中は静かだった。




12 名前:(・へ・) 投稿日:2006/11/16(木) 22:42:40.45 id:MtY97iY70
「今日は何時くらいに帰る?」

流し台で皿を洗いながら静かにツンが口を開いた。

「あぁ、昼前には帰るよ。
 夕方からでも仕事行かなきゃ。」

「今日は日曜日だけど?」

「俺の職場に土日は無いんだよ。」

「そう……。」


「それに、ブーンも帰ってくるんだろ?今日。」

一瞬、ツンの手が止まる。

「そうね。」

静かに一言、返事を返してまた何事も無かったかのように
洗い物を再開する。


13 名前:(・へ・) 投稿日:2006/11/16(木) 22:44:47.77 id:MtY97iY70
 二人で身を寄せ合った刹那は確かにそれを忘れて貪りあった。
だけど、俺はブーンを裏切った。ツンもまた、ブーンを裏切ったんだ。
その現実に、俺達はこれから身を置かなければならない。
…俺は、まだいい。
距離がある。
だけど、ツンは………ブーンと同じ家でブーンの妻として
裏切った事をひた隠しにしてこれからの日常を生きていかなければならない。
それはとても苦しい事ではないかと思った。

返信2006/11/16 23:44:02

14jigendaddyjigendaddy   ('A`)ドクオが生きるという事について考えるようです-13

14 名前:(・へ・) 投稿日:2006/11/16(木) 22:45:48.35 id:MtY97iY70


 ふとツンの部屋が目に入った。
不自然に戸が閉められていなかったからか
その部屋の中が覗き込めた。
ツンの部屋の机の上に置かれた瓶と大量の錠剤が目に入った。

「なぁ、ツン。」

「うん?」

 柔らかく返事を返して洗い物をしていた手を止めてツンが振り返る。
なんて事のない仕草だったが、家庭的な女というイメージがしっくりきた。

「あれ、何だ?」

 食後のお茶を啜りながら、瓶を指す。

「あぁ、あの瓶?」

一言、そう答えるとツンは流し台に身体を向け直して
また洗い物をする手を再開した。

15 名前:(・へ・) 投稿日:2006/11/16(木) 22:46:51.79 id:MtY97iY70




「それね、睡眠薬。」


さらりと錠剤の正体を教えてくれた。
しかし、意外と驚きは無かった。


”一緒に死なない?”

 昨晩のツンが絡むように抱きついてきた後に言った言葉が蘇り
あぁ、なるほど。と心のどこかで納得した。



16 名前:(・へ・) 投稿日:2006/11/16(木) 22:47:43.64 id:MtY97iY70


「私、今、精神科医に通っててね。
 それで処方された薬なの。」

嘘もいい所だ。
こんなに大量の睡眠薬を出す医者が居るとは到底思えない。
学生の頃からそうだったが、あまりよくない黒い繋がりやツテで
きっと、これを手に入れたのだろう。

「ドクオも飲んでみる?
 よく眠れるよ。」


 背を向けたまま、そう言ったツンの表情は伺い知れなかった。




17 名前:(・へ・) 投稿日:2006/11/16(木) 22:49:22.80 id:MtY97iY70



 駅まで送って行こうかというツンの申し出を断り、
俺はツンと、そしてブーンの家を後にした。
別れ際は特にこれといった会話は無かった。

 ただ一つ、確かなツンの意志だけは受け取った。
カバンの中に入った袋詰めされた大量の錠剤が、ツンの意志だ。

”ツンが望むならいつでも付き合おう。”

どこか自分を遠くに置いたような感覚で”約束が果たされる日”を覚悟した。

19 名前:(・へ・) 投稿日:2006/11/16(木) 22:52:58.64 id:MtY97iY70
 一人、閑静な住宅街を歩いているとふと感覚的な違和感を感じた。
具体的にどう違和感を感じたのかと言われると答えかねるが
世界が少し広く見えたような…そんな気がした。

”大人になったから、か?”

 やや自虐的な笑いを漏らす。

 立ち止まり、振り返る。
そこにはまだツンと共に一夜を過ごしたマンションが見えた。
昨日のツンとの事を次々と思い出して、
最後に夜の事を思い出しては心が痛くなる。

自然、歩く速度が加速した。

21 名前:(・へ・) 投稿日:2006/11/16(木) 23:00:58.36 id:MtY97iY70


 駅までの道の途中、コンビニを見つけた。
店を見つけると同時に口寂しさを感じたのと、気持ちの一転からか
俺は吸い込まれるように店の中に入り、

まずはライターを手に取る。
ここまではいつもと同じ。

だが、コンビニで”それ”を買うのは人が買っているのを傍目に
見て何となく分かっている程度だったので少し不安はあった。

「お次にお待ちのお客様どうぞー。」

やけにやる気のある中年店員に促されてレジの前へ。
意を決して店員に”それ”の銘柄を伝える。
それだけで目的の物は問題なく購入出来た。

ツンが吸っていた煙草。
銘柄は、そう…ピ-ス。

23 名前:(・へ・) 投稿日:2006/11/16(木) 23:05:01.78 id:MtY97iY70



 店の外に出る。
ほんの少し周囲の人目を気にしながら煙草を咥えて火をつける。

 軽く息を吸うと煙草の先に勢いよく火が点った。
それと同時に口の中に広がる味。
これは昨晩、記憶に刻み込んだツンの匂いだ。


 一人、せせこましく都合よくツンの感触と匂いを思い出して
俺はやけに狭くて、どんよりとした曇り雲が拡がる空を仰いだ。


返信2006/11/16 23:45:47

15jigendaddyjigendaddy   ('A`)ドクオが生きるという事について考えるようです-14

54 名前:(・へ・) 投稿日:2006/11/17(金) 23:45:07.29 ID:9+3zsdgJ0
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 ガタンと風が窓を叩く音で我に返った。
見渡すとそこはクーと煙草の匂いが混じったホテルの一室。


クーはシャワーを浴びに行ったまま、まだ戻って来ていない。
バスルームからは先ほどと変わらずシャワーの音が絶え間なく聞こえてくる。
まだまだ一人考えに耽る時間があると把握する。



程よく燃え尽きて短くなった煙草の先を灰皿にこすりつける。
細く白い煙を上げて煙草の火は消えた。

56 名前:(・へ・) 投稿日:2006/11/17(金) 23:47:02.61 ID:9+3zsdgJ0
もう一本、箱から煙草を取り出す。
最初はしどろもどろだった煙草の吸い方も今はだいぶと慣れたものだ。
煙草を吸い始めてから………いやツンを抱いてから
煙草の吸い方と女の抱き方は多少巧くなった。
一度限りの関係だったが、それでもあの濃厚な一夜は
俺に少なくない経験を与えてくれた。
………なんて思うのは自惚れだろう。
だけど、クーを抱く”今”に、あの夜の経験は確かに生きている。
そう思う。


だけど、その代償に色んな感覚が狂いはじめているような気がする。

そう。
色んな、感覚が。


57 名前:(・へ・) 投稿日:2006/11/17(金) 23:51:38.31 ID:9+3zsdgJ0
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「おや、ドクオ君、煙草吸うんだ?」

 給湯室で煙草を吸っている俺の姿を見て
上司とジョルジュは驚いた顔をしていた。
仕事はずぼらながら、品行方正で通っていた俺が
急に煙草を吸いだしたのは、よほど奇異に映ったらしい。

「いや、ちょっとした気分転換に吸い始めたんですよ。」

背伸びしたい年頃なんだろう、と思っているかのような目で俺を見る
上司と違ってジョルジュだけはやけに心配そうな顔をしていた。



58 名前:(・へ・) 投稿日:2006/11/17(金) 23:52:49.48 ID:9+3zsdgJ0

 仕事は相変わらず進まない。
正しくは著しく集中力に欠けると言うべきか。
考えようとすればするほどに頭の中につかえがあるかのように
考えが阻害され、苛立ちから煙草を吸う。
そんなサイクルがここ数日で俺の中で定着していた。


59 名前:(・へ・) 投稿日:2006/11/17(金) 23:53:39.97 ID:9+3zsdgJ0
―傍から見て悪循環と思える仕事サイクルが確立して
 さらに数日が経ったある日

「よーう、ドクオ。」

定時後、給湯室で煙草を吸いながら進まない作業と残りの仕事に
頭を抱えていると慌しく片手を振り回しながらジョルジュが声を掛けてきた。

「今から一緒にメシ行かね?」

「おう、別にいいぜ。」


61 名前:(・へ・) 投稿日:2006/11/17(金) 23:54:50.88 ID:9+3zsdgJ0
普段は俺から誘うのだが、その日は珍しく俺がジョルジュに誘われる形で
一緒に夕食に出かけた。
田舎で車を交通手段として持っていなかった俺達は歩いていける
近場の和食チェーン店に入る。
値段はさておき、その距離の近さから普段から重宝している店の一つだ。


64 名前:(・へ・) 投稿日:2006/11/17(金) 23:56:19.43 ID:9+3zsdgJ0
店員に案内されて二人、向かい合う形で席に座る。
見慣れたメニューから適当に食指を動かされたものを頼み
料理が出てくるまでの間、ジョルジュと他愛もない話を交わす。
会社の事。
上司の事。
後輩達の様子、お互いの仕事の状態………。
とても自然な話題の流れ方だったが不意にジョルジュが
俺が煙草を吸いだした事についての話題を振ってきた。

そして、一言、

「何か悩みがあるんなら話聞くぜ?」

そう言ってくれた。

67 名前:(・へ・) 投稿日:2006/11/17(金) 23:57:45.63 ID:9+3zsdgJ0
さすがに色んな意味で共に励ましあいながら戦場と呼んで
差し支えのないプロジェクトの末期を乗り越えてきただけに
ジョルジュには俺の素行の変わり方(と言っても煙草を吸うようになったぐらいだが)に
何か疑問を抱いたらしい。
よく気付くもんだ。
上司からもよく気がつくと影ながら褒められるのも納得出来る。

「何か、悩みあるんだろ?」

ジョルジュはおしぼりを手で弄びながら、それでも真剣な表情で
あくまで優しく俺を問いただす。

68 名前:(・へ・) 投稿日:2006/11/17(金) 23:58:53.07 ID:9+3zsdgJ0


悩み…。
ない事はない。
ツンを抱いてしまった事も悩みの一つだが何よりも
今、切実に悩んでいるのはブーンからの電話だ。

ツンを抱いた翌日から毎夜のようにブーンからの
電話がかかってきた。
後ろめたさや罪悪感も確かにある。
だが、それより何より俺が悩んでいるのはその電話の内容が
自殺相談だという事だ。



70 名前:(・へ・) 投稿日:2006/11/17(金) 23:59:22.20 ID:9+3zsdgJ0

「生きているのが辛いお。」
「これから働いていく自信がないお。」
「楽になりたいお。」

そして語尾には必ず「死にたいお。」の一言。


71 名前:(・へ・) 投稿日:2006/11/18(土) 00:00:37.72 id:GKPhgpaA0

最初こそ生きるんだ、と前向きな言葉を並び立てていた。
だが、どこかで俺の許容量は大きく超えてしまって、
そうなってくるといい加減、しつこいと思うようになってくる。

冷たいようではあるが、連日連夜、死にたいと漏らすだけの
相談としての体裁を成していない相談をもちかけられる事や
俺よりも遥かに働いていける………再就職に困らない技術に、
一つだけ汚点はあるかも知れないが、確かな実績を残したという職歴も備えた
”格上の人間”の嘆きはただの泣き言すら劣る言葉にしか
聞こえなくなってきた。


74 名前:(・へ・) 投稿日:2006/11/18(土) 00:02:52.93 id:GKPhgpaA0
だけど、何かを言い返すという事は出来なかった。
心に抱えている後ろめたさが、ブーンの自殺相談を
拒絶する一言を発せさせなかった。


だから、ただ、ブーンの心をえぐる言葉を聞いて相槌を返す。

毎晩のように何時間も呪詛を聞き続けて心にダメージがないわけはなかった。



75 名前:(・へ・) 投稿日:2006/11/18(土) 00:03:49.32 id:GKPhgpaA0

そしてある夜、俺はそれを口に含んだ。

”ドクオも飲んでみる?
 よく眠れるよ。”

―――ツンから貰った錠剤。

ツンの言葉に偽りはなかった。
精神安定剤の効果もあるのか、ブーンから受けた心のダメージも
それを飲めば忘れるようにどこか思考の遠くへ追いやることが出来た。
そして、心地よい眠気がすぐに訪れる。
程なくして、俺はツンから貰った錠剤を常用するようになった。

77 名前:(・へ・) 投稿日:2006/11/18(土) 00:04:54.72 id:GKPhgpaA0

そして、日増しに身体の一部に違和感といえばいいのだろうか…
よどみのような、しこりのようなものを感じるようになり
薬がないと眠れない身体になった。

いや、薬がないと眠れない身体になったというのは語弊があるか。
薬を飲まないとブーンの電話の後、眠れなくなったと言うべきか。



78 名前:(・へ・) 投稿日:2006/11/18(土) 00:05:25.94 id:GKPhgpaA0


一人、考えに耽る俺をジョルジュが不思議そうに見つめていた。

そうだ、悩みについて聞かれたんだ。
要約すれば悩みは二つ。
親友が毎晩自殺相談を持ちかけてくること。
親友の妻から貰った睡眠薬を常用して身体がおかしくなってきた事。
たったそれだけの事だ。


80 名前:(・へ・) 投稿日:2006/11/18(土) 00:07:14.09 id:GKPhgpaA0
「特に、悩みはないよ。」

話す必要もないだろう。

「そうかぁ?」

ジョルジュは明らかに納得はしていないという顔をしていた。
だが、かといってずけずけと詮索する事はなかった。
それは俺達の暗黙のルールなのだから………。

「お待たせしましたー。」

タイミングを見計らったかのように店員が注文した料理を運んできた。


83 名前:(・へ・) 投稿日:2006/11/18(土) 00:07:56.78 id:GKPhgpaA0

「何か相談に乗れることがあったら何でも言ってくれよな。」

渋々話を打ち切るといった表情でジョルジュは箸を二つ取り
一つを俺に手渡してくれた。

「ありがとう。」

ジョルジュは本当にいいやつだ。
心からそう思う。

でも、だからこそ、相談できない事もある。


84 名前:(・へ・) 投稿日:2006/11/18(土) 00:10:00.58 id:GKPhgpaA0


ふと見上げた空は煙草を吸い始めた日と同じ曇り空で、
俺はその何気ない空に日常という領域に暗雲が立ち込めてきたかのような…
そんな錯覚に陥った。

「曇ってきたな。」

俺の視線の先を追って空を見たジョルジュが呟く。

88 名前:(・へ・) 投稿日:2006/11/18(土) 00:10:40.82 id:GKPhgpaA0



ジョルジュには、それはただの曇り空にしか見えなかったのだろう。
それがたまらなく、羨ましく思えた。



返信2006/11/19 14:42:23

16jigendaddyjigendaddy   ('A`)ドクオが生きるという事について考えるようです-15

http://ex17.2ch.net/test/read.cgi/news4vip/1163860861/

6 名前:(・へ・) 投稿日:2006/11/18(土) 23:59:02.38 id:GKPhgpaA0
---------------------------

 何日かが過ぎた。

毎夜、ブーンのネガティブな独り言を聞かされて
ツンの感触と匂いを思い出しながら一服して睡眠薬を飲んで寝て、
朝起きて会社に行く。

一件繰り返しにしか見えない日常だが
時間と共に、そこに息づく闇の濃さは確実に増していった。

8 名前:(・へ・) 投稿日:2006/11/19(日) 00:00:38.09 id:U1lZZU7A0

ブーンの独り言は会社批判と自己否定から矛先を変え、
ツンや聞き手の俺、クーへと移り変わり、昔の事を蒸し返すように
不満を吐き出すようになった。
その他にも二、三度、自殺をするといって行為に踏み切ったそうだが
だが、そのどれもが見事に失敗している事から俺は
ブーンはただ死にたいと言って心配して欲しいだけなんじゃないかと
勘ぐるようになっていた。

俺も日に日に煙草と薬の量が多くなり、いつしか
薬の服用量はツンから聞かされた適量を超えていた。


10 名前:(・へ・) 投稿日:2006/11/19(日) 00:02:06.50 id:U1lZZU7A0

そんなある日、クーから電話があった。

「ドクオ君、少し話があるんだがいいか?」

ツンを抱いたことがばれたのだろうか、と思って胸がざわついたが
俺は出来る限り平静を装う。

「あぁ、ちょうど晩飯食いに出た所だから大丈夫だぜ。」


12 名前:(・へ・) 投稿日:2006/11/19(日) 00:04:06.30 id:U1lZZU7A0
クーはそうか、と一言返事をして僅かな間を置いた。


そして、やけに鋭い声で言った。

「ツンに何かしたか?」

瞬間、その言葉の鋭さと、あの夜のことがばれたのかという恐怖が走った。


13 名前:(・へ・) 投稿日:2006/11/19(日) 00:04:53.97 id:U1lZZU7A0

「いや、別に。」

そんな言葉が口から出た。
無意識のうちに、やけに落ち着いた様子で、口から出た。
普段なら、問い詰められた時にはまず間違いなく狼狽する俺の
性格を理解しているクーはその返事を俺が望んだ通りに解釈したのか

「そうか、だったらいいんだ。
 私の思い違いだろう。」

と一言、返す。

15 名前:(・へ・) 投稿日:2006/11/19(日) 00:05:54.28 id:U1lZZU7A0

「何かあったのか?」

クーの予想だにしなかった問いかけの真意が理解出来ず
思わずそう尋ねた。

「どうもな、ツンに君の話をした時、
 ツンの声が上ずっていたような気がしてな。
 君と何かあったのかと思ったんだ。」

………相変わらず良い勘をしている。


「まぁ、気のせいだったならそれでいいんだ。」



17 名前:(・へ・) 投稿日:2006/11/19(日) 00:07:19.12 id:U1lZZU7A0
それから、軽くお互いの近況報告をして、
ツンとこまめに連絡を取り合うクーがツンから
毎晩ブーンから暴力を受けているという話を聞いた事、
俺は俺で毎晩ブーンから呪いの電話を受けている事を
それぞれ話し合う。

それによって何か解決策や打開策が見出されるとは
微塵も思っていなかった。
クーの方は分からないが、少なくとも俺は愚痴のつもりで
今の状況を説明したぐらいの気持ちだった。

19 名前:(・へ・) 投稿日:2006/11/19(日) 00:08:18.82 id:U1lZZU7A0

ひとしきり報告を終えて、話す事も尽きた頃

「ドクオ君。
 私には、隠し事は無しにして欲しい。」

クーは、そう漏らして電話を切った。
その言葉が何を指すのかこの時の俺には理解出来なかったし、
理解しようとすら思わなかった。



20 名前:(・へ・) 投稿日:2006/11/19(日) 00:09:06.46 id:U1lZZU7A0






「いい死に方はないかお?」

夜が来て、電話がかかってきて、そしてブーンの独演会が始まった。

「ヨハネスブルグにでも行ったらどうだ?
 余所者は一発で殺されるらしいぜ?」

 ブーンへの嫌悪感が罪悪感に勝るようになってからは
俺も積極的にブーンに死ねる方法を提案するようになってきた。

「それは夢のある話だお。」

「だろ?」

「そういう所で死んだら消息不明とかになるのかお?」

「どうだろうな。
 その辺りは運に左右されそうな気はするぜ?」

22 名前:(・へ・) 投稿日:2006/11/19(日) 00:09:45.16 id:U1lZZU7A0

ブーンの提案に俺が答え、ブーンがその提案に返事をして
俺もまた返事を返す。
いくらか相談としての体裁を保っているが、話している内容と言えば
この世で一・ニを争える程に、本当に不毛な話し合いだと思う。


24 名前:(・へ・) 投稿日:2006/11/19(日) 00:13:06.12 id:U1lZZU7A0

無駄な話し合いで時間を無為に潰して、
時刻が2時を過ぎた頃、互いに沈黙が生まれた。
いや、正しくはブーンが喋るのを止めたのだ。


会話がなくなっておよそ3分。
ブーンは今までと声のトーンを変え静かに切り出した。

「ところで、ドクオ。
 ツンに何かしたかお?」


26 名前:(・へ・) 投稿日:2006/11/19(日) 00:14:06.53 id:U1lZZU7A0

「何のことだ?」

「心当たりはないかお?
 どうもツンの様子がおかしいんだお。」

「おかしい?」

「ドクオの話をすると、どんな事をしてる時でも
 ほんの一瞬だけど表情が変わるんだお。」

クーといいブーンといい、どうしてこうも勘が鋭いのだろう。


27 名前:(・へ・) 投稿日:2006/11/19(日) 00:15:40.20 id:U1lZZU7A0

「ちょうどあの日から、ずっとそういう状態なんだお。」

へぇ、と流しそうになったが気付いた。
ブーンが「あの日」と言った事に。

「あの日?何かあったのか?」

危なかった。
俺はブーンから直接、本社に泊りがけで出掛けた日の話は聞いていない。
意図は不明だが、今の一言はブーンの罠だ。

「………いや、わかったお。
 それなら、ツンに聞くまでだお。」

28 名前:(・へ・) 投稿日:2006/11/19(日) 00:17:00.94 id:U1lZZU7A0

言い終わりでブーンの声が遠くなる。
しばらくの間を置いてガシャンガシャンとガラスの割れる音が電話の向こうで響き、
ブーンの怒声と遠くにツンの悲鳴のようなものを電話が拾い、そこで電話は切れた。

時間は朝の四時過ぎ。
俺も携帯の電源を切って、睡眠薬を多めに飲んで布団に入った。
いつもの通り、1時間後に切れるようにクーラーのタイマーを設定する。
そして、眠りについた。


31 名前:(・へ・) 投稿日:2006/11/19(日) 00:20:03.00 id:U1lZZU7A0
---------------------------

 おかしな場所に立っていた。
空も大地も何もかも、あたり一面がセピア色に染まった世界。
周りを見渡すとポツンとツンとブーンの住むマンションのミニチュアがあった。
意識してそのミニチュアを見ていると屋根と思しき部分が透けて
ちょうど二人が住んでいる部屋の中が覗き込めるようになった。

その中にはツンがあの時見せた壊れた表情で壁にもたれながら
三角座りをしていた。
笑っているような泣いているような、全てに嫌気がさしているかのような………
たくさんの感情を一つに混ぜ込んだ表情。

33 名前:(・へ・) 投稿日:2006/11/19(日) 00:22:11.12 id:U1lZZU7A0

「ツン」と呼びかける。

声に気付くとツンは俺の顔を見つめて今まで見せていた壊れた笑いから、
いつもの笑顔を見せて口を動かし始めた。
何かを伝えたいようだ。
声としては何も聞こえない。
笑顔を直視せず、口だけに注視する。

”…ょに………な……?”



35 名前:(・へ・) 投稿日:2006/11/19(日) 00:24:36.28 id:U1lZZU7A0

なんだって?

”い………にし………い?”

少しずつ、その答えが頭に届いていく。
何十回、何百回とツンの口元だけを注視して
ようやく、理解出来た。


36 名前:(・へ・) 投稿日:2006/11/19(日) 00:26:27.16 id:U1lZZU7A0





”一緒に死なない?”



瞬間、目の前が真っ白になり意識が急速に覚醒していくのを感じた。



開いた目。
見知った天井。
家の外で車や人が行きかう音。
今見たのは夢だったようだ。


37 名前:(・へ・) 投稿日:2006/11/19(日) 00:27:28.39 id:U1lZZU7A0

気だるい身体を起こしてカーテンを開く。

いつもと同じはずの光景に違和感を感じた。
普段なら近所の小学校、中学校に通う学生達の姿が見えるはずなのに
今日は、その姿が少しも見えなかった。
見えるのは散歩する老人や清々した顔で自転車に乗っている主婦らしき女性の姿。
今日は日曜日じゃない。
それに、空の色が普段よりもやけに明るい。

時計を見ると時刻は10時を回っていた。


「遅刻かよ………。」




39 名前:(・へ・) 投稿日:2006/11/19(日) 00:30:17.44 id:U1lZZU7A0





「珍しいね、ドクオ君が遅刻っていうのは。
 まぁ、仕事で疲れが溜まってるからね。」

出社後、遅刻届を提出した時に上司にそう言われたが、
最近の勤務時間も普段から考えると常軌を逸しているというのもあってか
特にお咎めはなかった。

上司の席から自分の席へ戻る途中、ジョルジュの視線を感じたが
あえてその視線の先は見ずに淡々と仕事の準備を始めた。

仕事を始めてからも隣の席のジョルジュが時折心配そうに
覗き込んできたが気付かないフリをひたすら通した。
ジョルジュには申し訳なかったが今はお互いの暗黙のルールに感謝した。

40 名前:(・へ・) 投稿日:2006/11/19(日) 00:31:47.57 id:U1lZZU7A0

 日中、集中出来ない頭を出来る限り働かせて仕事に取り組む。

だが、ここまで遅れが出て、作業もさして進まなくなってくると、
もはやどうでもいいやという気持ちすら芽生えてき始めていた。
どうにかその怠惰な考えを振りほどき、集中して、また振りほどく。


 気が付くと同じ所を一人グルグル考えていただけで定時は過ぎていた。


43 名前:(・へ・) 投稿日:2006/11/19(日) 00:33:54.48 id:U1lZZU7A0

日が変わり、帰宅する。
疲れているのかどうかもよく分からない身体をベッドに横たえる。
もうあと少ししたらブーンからの電話がくると思うと
帰宅後の開放感も一気に色褪せていく。

埃まみれになっているプレステ2やテレビを見ながら
一服していると携帯が鳴った。
着信相手は不明。公衆電話からだ。

ハッとして通話ボタンを押す。


「もしもし?ドクオ?」

随分と久しぶりに聞くツンの声だった。


44 名前:(・へ・) 投稿日:2006/11/19(日) 00:35:45.05 id:U1lZZU7A0

「よう、ツンか。久しぶり。」

「そうね、久しぶり。
 ちゃんとご飯食べてる?」

母親みたいなことを言ってクスクスと笑う。
少し子ども扱いされてムッとしたが、それでも
俺も笑い返せた。


公衆電話からかけてきている事やブーンの事には触れず
ただ盲目に今、この瞬間を楽しいと思う話をした。

絶えず聞こえるツンの笑い声がたまらなく愛しく思えて、
それと同時に、この時間が楽しいと思う自分がたまらなく醜く思えた。


45 名前:(・へ・) 投稿日:2006/11/19(日) 00:36:26.89 id:U1lZZU7A0



「ところでね、今度の日曜日だけど暇?」

話の流れを打ち切って、ツンがそう切り出した。

「忙しいっちゃあ忙しいけど?
 何か用か?」

返事はしばらく返ってこなかった。

「ツン?」

電話が繋がっているかを確認するようにツンの名前を呼ぶ。
それからしばらくして、ようやく言葉が返ってきた。


47 名前:(・へ・) 投稿日:2006/11/19(日) 00:37:51.83 id:U1lZZU7A0



「私ね、決めたの。
 ………死ぬわ。」

ブーンのそれとは違った一つの決意を感じ取れる言葉だった。
二度はない。
この言葉を二度、口にすることは、ない。
そんな決意。


48 名前:(・へ・) 投稿日:2006/11/19(日) 00:39:32.64 id:U1lZZU7A0

「そうか………いつに、するんだ?」

自然と返事が出来た。


「今度の日曜日にそのまま、か?」

「うん、そのまま。」

「そうか。」

「だからね………最期にもう一度ドクオに逢いたい。
 ……いいかな?」



49 名前:(・へ・) 投稿日:2006/11/19(日) 00:40:09.82 id:U1lZZU7A0


―――あぁ、当たり前だろ。


 上九一色村 青木ヶ原。
ツンが最期の逢瀬に求めた場所の名には確かな覚悟が密められていた。


返信2006/11/19 20:08:56

17jigendaddyjigendaddy   ('A`)ドクオが生きるという事について考えるようです-16

http://ex17.2ch.net/test/read.cgi/news4vip/1163950886/

3 名前:(・へ・) 投稿日:2006/11/20(月) 00:51:54.59 id:pgE/oRCU0
---------------------------

 上九一色村。
一昔前、オウム真理教の事件でよくニュースに取り上げられていた
この地には一つの名所がある。
その名所の名は青木ヶ原樹海。

整備された遊歩道や近辺に点在する公園やキャンプ場など
アウトドア好きの人間には持ってこいの観光名所だ。

反面、樹に囲まれた遊歩道の先は足場も悪く
足を踏み入れる人があまりいない。
死にたがりには持ってこいの自殺名所だ。

観光名所としても、自殺名所としても名高い樹海の中に
その日、俺とツンは居た。



5 名前:(・へ・) 投稿日:2006/11/20(月) 00:53:42.27 id:pgE/oRCU0

樹々の葉が擦れ合う音は波の音のように響き
それは動物か虫かが発する音や声と重なって、死出の道程のBGMとしては
悪くない音を奏でていた。

ここ数日の疲れが抜け切っていない身体と眠気が抜けない頭で
ただツンの後を追って歩き続ける。
遊歩道を越えて樹海に入ったところからお互いに会話はない。


ツンの後姿を見ながら、何の気なく突っ込んだポケットの中に
紙らしきものの感触がある事に気付き、なんだ?と思ってポケットから
紙を取り出す。
それは会社近くの和食チェーン店のデザート無料券だった。


6 名前:(・へ・) 投稿日:2006/11/20(月) 00:54:56.33 id:pgE/oRCU0

「よう、ドクオ。
 これやるよ。」

 数日前のジョルジュとのやりとりが脳裏に蘇る。




8 名前:(・へ・) 投稿日:2006/11/20(月) 00:56:37.39 id:pgE/oRCU0
 ツンとの約束を交わしてから日曜日までの数日を使って
俺は身辺整理も兼ねて会社に置いていた私物を整理する事にした。
もともと俺のデスクは結構な数の技術書やその他どうでもいい本に
埋め尽くされていたしちょうどいいと思っての事だ。

「ドクオ?何やってんだ?」

ごそごそと定時過ぎに私物をまとめ始めた俺の姿を確認して
ジョルジュが怪訝そうな顔でたずねる。

「ちょっといらないものの整理をな。」

ジョルジュは少し、悩んだような顔をしたが意を決したかのように
強い口調で切り出した。

「………なぁ、しつこく聞くのもどうかと思うんだけどさ。
 お前、やっぱり何かあっただろ?」

見つめ返したジョルジュの目には嘘は許さないと言う色が宿っていた。



10 名前:(・へ・) 投稿日:2006/11/20(月) 00:59:07.10 id:pgE/oRCU0

「…あぁ。」

ジョルジュの問いに、初めて正直に答えた。

「やっぱりな。
 でも、そこまで隠すくらいだから相談しにくい事なんだとは思うけどさ、
 俺達は一緒に仕事して死ぬかと思うような仕事も協力して
 乗り越えてきたじゃねぇか。
 ちょっとは、俺の事を信用してくれよ。」

「信用ならしてるって。」


 そう返すとジョルジュは腕組みしてやや大げさに唸り始めた。


11 名前:(・へ・) 投稿日:2006/11/20(月) 01:00:37.68 id:pgE/oRCU0

「分かったよ。
 どうあっても言いたくないってんだな。
 だったら………」

ジョルジュはカバンの中に手を突っ込み、
何かの紙を俺に差し出した。

「この券、来月から使えるんだ。」

そう言って、「デザート無料券」と印刷された紙を俺の手に握らせたが
その行動の意味がよく分からず不思議そうな顔をしていたらしい俺を見て
ジョルジュは気恥ずかしそうに話出した。

13 名前:(・へ・) 投稿日:2006/11/20(月) 01:01:46.91 id:pgE/oRCU0

「この券が使えるまでにその悩み事でまだ悩んでるってんなら
 そのときは何が何でも相談に乗ってやる。
 いいか?強制だ。どんなかっこ悪いと思われるかもしれないと
 思ってる相談でも何でも、この券が使えるようになったら
 この店でメシを食いながら俺に相談する事。いいか?
 約束だ!」

そこまで言い切って照れ隠しのようにプイッと顔を横に向ける。
控えめなジョルジュが言ってくれた思わぬ大胆な言葉に少し
胸が熱くなった。


15 名前:(・へ・) 投稿日:2006/11/20(月) 01:03:13.27 id:pgE/oRCU0

「ありがとう。」


そう答えた俺は心からありがとうと思っていたのだろうか?
思ってはいても、こうして樹海に来て終わりにしようとしている時点で
俺はジョルジュの好意を裏切ったんじゃないかと思った。


「はぁ…。」

裏切りという言葉にブーンの顔が思い浮かんで、ジョルジュの事や
ブーンの事を考えて、思わずため息が出た。


返信2006/11/20 10:16:48

18jigendaddyjigendaddy   ('A`)ドクオが生きるという事について考えるようです-17

16 名前:(・へ・) 投稿日:2006/11/20(月) 01:04:57.74 id:pgE/oRCU0

「疲れた?」

樹海に入ってツンが始めて口を開いた。

「いや、大丈夫。」

「そう言う割にはちょっと足がふらついてるんじゃない?」

いつもよりいくらか乾いた感じの笑い声が言葉の後に繋がる。


「まぁ、もうちょっとだろ?
 辛抱するよ。」

「………そうね。」



18 名前:(・へ・) 投稿日:2006/11/20(月) 01:05:50.88 id:pgE/oRCU0

ジョルジュの事もブーンの事もかき消すようにして忘れて
ツンが用意したくれたすずらんテープを手に気力を奮い起こす。

このテープは遊歩道の中の樹の一本に括りつけられていて
これを目印にすれば遊歩道まで帰る事が出来る。
有言実行のツンが何故こんなものを用意したのかは
よく分からなかった。

分からないといえばもう一つ。

「なぁ、ツン。」

無言に飽きてきた俺はそれをツンに尋ねる事にした。



19 名前:(・へ・) 投稿日:2006/11/20(月) 01:06:57.82 id:pgE/oRCU0

「なに?」

「なんでまた、樹海で?」

「いい死に方を考えたの。
 ここでなら絶対うまくいくと思ったから。
 だから、ここにしたの。」

「絶対に?
 それなら別にここじゃなくても……」

「そうじゃないわ。」

少し冷たい口調でピシャリと俺の言葉を遮る。

「死んでも、絶対に見つからない方法よ。」


20 名前:(・へ・) 投稿日:2006/11/20(月) 01:07:55.15 id:pgE/oRCU0

「下調べしたんだけど、GPSもあって携帯の電波受信範囲が広がっている
 このご時世、奥まった場所に行って首吊りをしても大体は発見されるらしいわ。」

地面に落ちていた”完全自殺マニュアル”と思わしき本の残骸を
詰まらなそうに蹴ってツンは言葉をつなぐ。

「この本には、XポイントだとかYポイントだとか
 見つかりにくそうな場所を地図に書いてたけど、
 この本はもう十年以上前のものだからね。
 十年一昔って言うでしょ?
 こんなのを信用して本当に見つからないなんて思ってる人は
 ただの馬鹿よね。」



22 名前:(・へ・) 投稿日:2006/11/20(月) 01:09:16.95 id:pgE/oRCU0

「私はね、ドクオ。
 自分の死体を残したくないの。
 少なくとも、白骨化して無縁仏として誰なのかも分からないままに
 埋葬されたいと思ってる。」

歩みは止めず、ツンは顔を俺に向ける格好で話をさらに続ける。

「もしも身元が分かった状態で発見されたら
 私はその内死ぬブーンと一緒のお墓のに入らないといけなくなる。
 死後の世界や死んだ後に意識のようなものがあるなんて
 少しも信じていないけど………それでもそう考えるだけで
 気持ちが悪くなるの。」


23 名前:(・へ・) 投稿日:2006/11/20(月) 01:10:58.10 id:pgE/oRCU0

「俺と一緒なら、いいのか?」

ツンはその質問には言葉としては何も返さず柔らかく笑って返す。
その表情はどこか儚かった。

「波の塔を読んだ時には、まさか自分がこんな場所で
 最期を迎えるとは思わなかったなぁ。」

そして、まるで関係のない話を持ち出して空を仰いだ。



25 名前:(・へ・) 投稿日:2006/11/20(月) 01:11:46.83 id:pgE/oRCU0

「ここで、いいわ。」

今まで通ってきた道と特に見た目に変わりのない場所で
唐突にツンは背を向けたまま、言う。

「ここか?」

「そう。
 ここで、お別れ。」

「お別れ?」



26 名前:(・へ・) 投稿日:2006/11/20(月) 01:12:30.48 id:pgE/oRCU0

 その言葉の意味が分からず復唱する。
復唱と言う形でツンに投げかけた問いは言葉としてではなく
ふわりと、ツンの身体が俺の胸にとびこむ形で返ってきた。
あの時と同じ、優しいツンに匂いがした。
ツンはぎゅっと俺の腰に手を回し、俺もそれに応えるように
ツンの背と腰にそれぞれ手を回してツンをしっかりと抱きしめる。

俺達は強く抱きしめあった。


28 名前:(・へ・) 投稿日:2006/11/20(月) 01:14:04.02 id:pgE/oRCU0

樹のざわめき。
虫や鳥の声。
暗い森を照らす木漏れ日。
ツンに香り、ツンの感触、ツンが此処にいるという事。
生まれて始めて、この世界はとても美しいものだったんだとようやくにして気付けた。

自然が持ち得る色と輝きが確かに見えた。
触れている感触と匂いと存在に例えようのない安心感を確かに感じさせてくれた。
目の前に広がる全てが、輝きを持っていた。

世界は余りにも綺麗だ。

この気持ちを感じるのは、生涯最初にして最後だろう。
だけど、それで良かった。
冥土の土産には十分過ぎた。


30 名前:(・へ・) 投稿日:2006/11/20(月) 01:15:40.24 id:pgE/oRCU0

 どれほどそうしていたかは分からなかったが
やがてツンは俺の胸元に両手を置いて、押し出すようにして
ゆっくりと俺から身を離した。


「今までお世話になりました。」



33 名前:(・へ・) sage 投稿日:2006/11/20(月) 01:16:54.69 id:pgE/oRCU0

凛とした、だけど見た事のないほど清々しいツンの笑顔がそこにあった。
微笑を残したまま、ツンは背を向けて歩き出した。
足元が安定しないせいもあってか、物語のように一瞬で
姿が消えて行く事はなく、途中何度も転びそうになるツンとの
距離がちょっとずつ、本当にちょっとずつ離れていく。


34 名前:(・へ・) sage 投稿日:2006/11/20(月) 01:17:57.36 id:pgE/oRCU0

「俺は?」

間抜けな俺の声が樹海にこだまする。
ツンは何も答えない。ただ、歩き続ける。

「ツン!!」

俺は悲鳴に近い叫びをあげた。

ツンは歩みを止めてゆっくりと振り返る。
振り返ってもなお、ツンはあの光に似た笑顔を湛えていた。



37 名前:(・へ・) sage 投稿日:2006/11/20(月) 01:19:45.38 id:pgE/oRCU0
そして、呟くように答えてくれた。






”生きて”






38 名前:(・へ・) sage 投稿日:2006/11/20(月) 01:20:28.62 id:pgE/oRCU0

俺が何を叫ぼうともツンはもう振り返らなかった。
頭はその後を追う事を求めたが足は動かず、ガクガクと震える足で
どうにか立っているだけで精一杯だった。
その震えは疲れからではなく、あの一言からくるものだと言う事は
すぐに分かった。




「なぁ、俺は?どうすればいいんだよ?」

少し遠くなったツンの後姿にすがる様に問いかけるが
やはり返事はない。


43 名前:(・へ・) sage 投稿日:2006/11/20(月) 01:25:56.08 id:pgE/oRCU0

ツンがあの笑顔のままで呟いた言葉が頭の中に反芻して
俺は何かに突き動かされるように、来た道を振り返った。

目の前に広がるのは暗い樹海と一筋のすずらんテープ。
そして後ろの方では徐々に小さくなる足音。

「生きろって、酷な話じゃねぇか?
 なぁ、ツン。」

背の側にいて、居なくなろうとしているツンに、
返事が返ってこないことと知りながら叫ぶ。

「そっち、行ってもいいか?」

返事はない。
肯定も否定も、なにもない。

全ては自由。
そう言う事なのだろう。


47 名前:(・へ・) sage 投稿日:2006/11/20(月) 01:29:14.08 id:pgE/oRCU0

目が熱い。
どうして、こんな酷な選択を俺は強いられているんだ?

ただ、ツンがしたいように、付き従うつもりだったのに……。

前には暗い道。
後ろにはあの瞬間感じた光のような笑顔と美しいと言う言葉では
言い表せない輝きに満ちた”せかい”。

あまりにも分かりやすい選択肢だった。



52 名前:(・へ・) sage 投稿日:2006/11/20(月) 01:32:28.14 id:pgE/oRCU0

まずはポケットから煙草を取り出して、火をつける。
銘柄は、いつもと同じピース。

「戻ったらまた夕方から会社かぁ。
 生きていくの、めんどくせぇな。」

未だ吸いなれない煙草から出た煙と声を吹かす。
足音はもう聞こえなくなっていた。


60 名前:(・へ・) sage 投稿日:2006/11/20(月) 01:37:59.59 id:pgE/oRCU0

一時間後、俺は無事に遊歩道に戻って来られた。

ひょっとしたら………受動的な可能性を無責任に信じて
俺はそのテープを切らずにそのまま放置した。

もう一本、煙草を吸う。
吐き出した煙が天に昇る。


61 名前:(・へ・) sage 投稿日:2006/11/20(月) 01:38:54.17 id:pgE/oRCU0

”俺、何をやってんだろ?
 また大事な人を裏切っちまった。”


目の前が滲んで見えなくなる。



だけど、俺は生きていた。


65 名前:(・へ・) sage 投稿日:2006/11/20(月) 01:42:39.23 id:pgE/oRCU0

こうして、ツンは俺達の前から姿を消した。

俺の心に”光”のような感情を刻み込んで、
ただ静かに、綺麗に、儚く、物悲しく、美しく。

彼女は確かにこの世界で生きて、最期に俺に光を与えてくれた。

そして俺は結局 約束を守らずに 一人汚らしく生き残った。



返信2006/11/20 10:18:26

19jigendaddyjigendaddy   ('A`)ドクオが生きるという事について考えるようです-18

98 名前:(・へ・) sage 投稿日:2006/11/21(火) 00:12:26.97 id:xajp36XJ0
------------------------------------------------

「またツンのことを考えていたのか?」

 シャワーから戻り、バスタオルを身に纏ったクーが
怪訝そうな顔で俺を見ていた。


クーが指差した先に視線を送ると手にしていた煙草の火が
フィルターにまで及んでいて、シーツの上には焼け落ちた
煙草の灰が鎮座していた。

一言、バカと言ってクーは備え付けの冷蔵庫から
缶ビールを取り出してタブを開けて口に運ぶ。


99 名前:(・へ・) sage 投稿日:2006/11/21(火) 00:15:48.45 id:xajp36XJ0
俺は灰を床に落とし、燃え移るものがないか確認して
クーの問いかけに答える。

「ツンがいなくなった後の事を考えてた。」

「そうか。」

気のない返事を返してクーはベッドに腰掛ける。

「色々と、あったな。」

「そうだな。」

それ以上何も言わずビ-ルを飲むクーと
新しく箱から煙草を取り出して火をつける俺。

室内は静寂に包まれた。

----------------

101 名前:(・へ・) sage 投稿日:2006/11/21(火) 00:17:04.81 id:xajp36XJ0


「ツンが帰ってこないんだお。」

ツンが居なくなった日の夜、ブーンの電話での第一声はそれだった。

「どこにいったか知らないかお?」

「知らねーよ。」

………本当は知っていた。
居場所ではないが…ツンは、もうこのせかいに居ないと言う事を
俺は、知っていた。


103 名前:(・へ・) sage 投稿日:2006/11/21(火) 00:18:25.36 id:xajp36XJ0

「俺だって驚いてるんだ。
 ツンが、居なくなったなんて聞かされて。」

白々しく嘘を並び立てる。

………いや、驚いたというのは嘘ではない。
ブーンが、こんなにも早くツンが居なくなった事について
電話してきた事にはそれなりに驚いた。




105 名前:(・へ・) sage 投稿日:2006/11/21(火) 00:20:59.45 id:xajp36XJ0

「居なくなって初めて分かったんだお。
 ブーンには、ツンが必要なんだと言う事が。」

散々傷つけておいて、後になってハッとして謝る。
一度突き放してすぐに繋ぎとめる。
DVによくある事だとワイドショーか何かのDV特集で聞いた話だ。
ブーンのこの言葉が、それと同じものかどうかは分かりかねたが
その真贋がついた所でもはや、どうしようもない。
ツンはもう、”居ない”のだから。


106 名前:(・へ・) sage 投稿日:2006/11/21(火) 00:22:51.47 id:xajp36XJ0

今まで酷いことをした。
これからは心を入れ替える。

そんな言葉を何故か俺に聞かせるブーンだったが、
その真意はその一言で理解できた。

「ツンを、返して欲しいお。」

「まるで俺の所にいるような言い方だな。」

「そう、聞こえたかお?」

「あぁ、そう聞こえたよ。」

ブーンはツンが俺の家に逃げ込んだと思っているのだろう。
さもなくば、俺に所在くらいは教えている、と………そう思っているのだろう。


107 名前:(・へ・) sage 投稿日:2006/11/21(火) 00:23:34.13 id:xajp36XJ0


「お前が信じるかどうかは分からないけど
 俺は本当にツンの居場所は知らないぞ。」

出来る限り、強い口調で伝える。

「そうかお…。わかったお………。」

毎夜恒例の呪いの独演会を開催しないまま、少し悲しみのこもった声で
呟いてブーンは電話を切った。


108 名前:(・へ・) sage 投稿日:2006/11/21(火) 00:24:30.13 id:xajp36XJ0


携帯電話を充電器に刺してベッドに仰向けに倒れこむ。

”ツンを返せ、か。”

樹海で最後に微笑んだツンの顔と言葉が脳裏をよぎる。
あの言葉が俺の中に残された最後のツンの思い出だ。

これは、俺がツンから受け取った彼女の意志だ。


110 名前:(・へ・) sage 投稿日:2006/11/21(火) 00:25:05.26 id:xajp36XJ0





………これなら、返してやる事は出来るのかもな。


111 名前:(・へ・) sage 投稿日:2006/11/21(火) 00:27:21.84 id:xajp36XJ0

身を起こして時計を見る。
夜の1時。

大丈夫。遠慮するような仲でもない。
それに何よりブーン相手なら失礼にも当たらないだろう。

着信履歴、一つ前の相手に電話をかける。


「もしもし?どうしたんだお?」


112 名前:(・へ・) sage 投稿日:2006/11/21(火) 00:28:01.42 id:xajp36XJ0

「いきなりこんな事言うのも変な話だけどよ、
 聞いてくれよ。」

「なんだお?」

精一杯の気持ちを込めて俺がツンから受け取った意志を言葉にする。


114 名前:(・へ・) sage 投稿日:2006/11/21(火) 00:28:31.57 id:xajp36XJ0





―――――生きろ


115 名前:(・へ・) sage 投稿日:2006/11/21(火) 00:29:46.75 id:xajp36XJ0



「どういう、つもりだお?」

「どういうつもりだろうな。」

俺の用件はこれで済んだ。
話すことはもう何もない。


「用件はそれだけだ。」

「………そうかお。」

確かに、返したぜ。
お前が望んだものだ。


117 名前:(・へ・) sage 投稿日:2006/11/21(火) 00:30:54.38 id:xajp36XJ0



ブーンに、ツンの最後に残してくれた意志を託して携帯を投げ捨てた。
ガシャンという無機質な音がして、それと同時に笑いが込み上げてきた。

「ツン、あの言葉はお前の夫に返したぜ。
 言葉なら、いいだろ?
 言葉なら一緒に墓に入ることもないもんな。」


118 名前:(・へ・) sage 投稿日:2006/11/21(火) 00:31:28.69 id:xajp36XJ0

ほの暗い部屋の中で「は」の言葉だけを繋げて笑う。
その内、機械的でしかなかった笑いは心の底からのものに移り変わり
俺はただただ笑い続けた。

笑い終わると同時に心の中が虚無感と喪失感に包まれて
ツンが最期に見せてくれた光も、すでに消え失せていた。


返信2006/11/23 08:45:30

20jigendaddyjigendaddy   ('A`)ドクオが生きるという事について考えるようです-19

121 名前:(・へ・) sage 投稿日:2006/11/21(火) 00:33:30.38 id:xajp36XJ0

ひょっとしたら………
あまりにも突拍子もない考えが不意に芽生えた。

ツンのあの言葉には”想念”が込められていたのではないかと。
生きてほしいと望んだ、彼女の想念が。

それをブーンに託したからだろうか。
急に心細くなった。
自分が世界で一人ぼっちになったかのような錯覚に陥る。


122 名前:(・へ・) sage 投稿日:2006/11/21(火) 00:33:57.99 id:xajp36XJ0

”ツンを思い出そう。”

考えるよりも先に煙草の箱に手を伸ばす。

「あぁ、クソ。」

煙草の箱に入った指は何も掴めない。

「煙草、さっきのが最後の一本だったのかよ。」


125 名前:(・へ・) sage 投稿日:2006/11/21(火) 00:35:06.76 id:xajp36XJ0

頭を掻き毟り、考えた。

おもむろに立ち上がって冷蔵庫からペットボトルに入った水を取り出し、
ツンがくれた薬をいつもの倍以上の量を鷲掴みにして何も考えずに口の中へ放り込む。
10錠を超える錠剤は何も無しでは飲み込めず、口内に錠剤特有の味を
感じ始めて慌てて水を飲み込む。
ゴクゴクと喉を鳴らせて錠剤を水と一緒に流し込む。

ペットボトルから口を離すと同時に蒸せて咳き込んだが
どうにか堪え、錠剤を吐き出さずに済んだ。


127 名前:(・へ・) sage 投稿日:2006/11/21(火) 00:36:11.75 id:xajp36XJ0

何もせずに、ただ薬が効くのを待つ。
程なくして薬が回って身体が眠気を感じたが、心は例えようのない孤独感と虚無感に
苛まれて、中途半端に覚醒した状態で深い眠りについた。
時刻はまだ2時。
いつもよりも2時間も早い就寝だ。

目蓋を閉じて意識が沈んでいく。
沈みゆく意識の中で、俺は朝が来なければいいと願った。


129 名前:(・へ・) sage 投稿日:2006/11/21(火) 00:38:45.47 id:xajp36XJ0

意識が妙にはっきりしている状態での睡眠は思いの外苦しい。
仕事が立て込んでいて、自分の受け持ちの部分で大きな問題が発生している時に
とった仮眠もそうだった。
胸につかえがあるような、焦燥感と苛立ちが眠りたいという欲望を先立ち阻害するあの感覚。
今日の眠りは、あれをさらに何倍も濃くした酷い眠りだった。


何時間もの間、意識のある状態でようやく朝が来た。


131 名前:(・へ・) sage 投稿日:2006/11/21(火) 00:39:32.04 id:xajp36XJ0

身を起こす。

「頭、痛ぇ………」

薬の過剰摂取のせいか、二日酔いのような酷い頭痛に苛まれた。
この睡眠で得られたのは頭痛だけで、心の中の空虚感と喪失感だけはリセットされずに
そのまま残っていた。


135 名前:(・へ・) sage 投稿日:2006/11/21(火) 00:42:07.14 id:xajp36XJ0
シャワーを浴びて
会社近くのニセモノコンビニで適当にパンと缶コーヒーを買って
会社に到着する。
そして、タイムカードを押し
やけに整理された自分の席で朝食を摂る。
朝礼が始まり、
上司への仕事の報告をして、
ジョルジュと今後の作業についてミーティング。
昼休み。
午後一の全体ミーティング。
仕事。
定時過ぎ。
仕事。
帰宅。


実に淡々と一日が終わった。

137 名前:(・へ・) sage 投稿日:2006/11/21(火) 00:42:45.76 id:xajp36XJ0

何故か今日はブーンからの電話は無かったが、なんだかもう
どうでもいいと思った。

テーブルの上に鎮座されているツンから貰った錠剤が目に入る。

その数はいつの間にか半分近く減っていた。


”だけど、これだけあれば………”

ぽっかりと空いた心の中に一つの闇色の考えが生まれた。
ツンを見送った後、選び損ねた選択。


138 名前:(・へ・) sage 投稿日:2006/11/21(火) 00:43:44.98 id:xajp36XJ0







”死ぬか。”





139 名前:(・へ・) sage 投稿日:2006/11/21(火) 00:44:29.26 id:xajp36XJ0

悩む事や後々のことを考えるという予備動作は一切無く、決定は一瞬だった。

冷蔵庫から会社行事の余り物処理係として渡された酒類と
ツンから貰った睡眠薬を手当たり次第に並べて
躊躇なく睡眠薬を握れるだけ掴んで口に放り込み酒を煽った。

ブランデーかウォッカだか何かはよく分からないが
とにかく流し込むように飲んだ。



142 名前:(・へ・) sage 投稿日:2006/11/21(火) 00:44:54.59 id:xajp36XJ0

錠剤を掴む。
酒を飲む。
錠剤を酒と共に流し込む。

会社の仕事の比にならないくらい簡単な作業だった。


143 名前:(・へ・) sage 投稿日:2006/11/21(火) 00:45:54.75 id:xajp36XJ0

飲み込んだ量が3,40錠を超えた辺りで腹部に
満腹感とは違う感覚が訪れた。
胃が錠剤に飽きたとでも言っているかのような
あるいは脳が本能的にそれを拒絶して胃に負荷を
かけているのか、とにかくこれ以上飲み込めそうにないと
いう気持ちになる。


145 名前:(・へ・) sage 投稿日:2006/11/21(火) 00:46:33.53 id:xajp36XJ0



だけど、まだ、足りない。





147 名前:(・へ・) sage 投稿日:2006/11/21(火) 00:47:59.50 id:xajp36XJ0

胃は拒絶しているが構わず、酒と一緒に錠剤を流し込む。
何度か喉から先を通らず、詰まりそうになるが
気合で飲み込む。

その頃になると喉から、吐く寸前に聞こえるようなくぐもった声が出て
それは我ながらとても耳障りな声だった。


149 名前:(・へ・) sage 投稿日:2006/11/21(火) 00:49:44.84 id:xajp36XJ0

錠剤の残り数が僅かとなったところでようやく眠気が来た。
それは今までに感じたことのない眠気で、眠る以外の何も出来ないもので
何も許さないという強制力のあるとても”重い”眠気。

目の前の光景がぼやけて、瞬間身体から全ての感覚が遮断されて、
そして、俺は眠りに落ちた。


151 名前:(・へ・) sage 投稿日:2006/11/21(火) 00:51:27.42 id:xajp36XJ0

”今からそっちに行くからな。”

”って、お前は死後の世界とか信じてなかったっけ。
 はは、困ったな………。”

心の中で、そんな事を考えて、せかいは暗闇に染まった。


返信2006/11/23 09:10:56

21jigendaddyjigendaddy   ('A`)ドクオが生きるという事について考えるようです-20

200 名前:(・へ・) sage 投稿日:2006/11/22(水) 01:14:30.33 id:yBAdpMrj0
----------------

広く長い回廊に俺は立っていた。
床に敷かれた絨毯の色が赤なのか、青なのか
そもそも色があるのか、無いのか………
それすらも分からない不思議な状態だった。

視覚や聴覚、嗅覚は切り取られたかのように無くなっていて
それでも自分の事や自分を取り巻いていた状況だけは
嫌にはっきりと理解できていた。


201 名前:(・へ・) sage 投稿日:2006/11/22(水) 01:15:36.48 id:yBAdpMrj0

回廊の壁を見ると額縁が掛けられていて
その中には”動く絵”が描かれていた。

物心付いた頃の光景が映った絵。
幼稚園の頃の光景が映った絵。
小学生の頃の光景が映った絵。


202 名前:(・へ・) 投稿日:2006/11/22(水) 01:16:23.89 id:yBAdpMrj0

なるほど、今生の終わりに俺の年代記展示会開催って事か?
弱い脳みそが用意してくれた走馬灯の代用品か何かだと
認識して俺は回廊を歩き始めた。

回廊の先はぼやけていて、どこまで続いているのかは分からない。


204 名前:(・へ・) 投稿日:2006/11/22(水) 01:20:42.77 id:yBAdpMrj0

生まれた頃から小学生の頃までの絵を
淡々と流すように見ながら歩いていたが
中学生の頃の絵を見て足が止まった。

こいつはそうだ。
夢を見つけた頃の思い出だ。


205 名前:(・へ・) 投稿日:2006/11/22(水) 01:23:38.31 id:yBAdpMrj0

俺は小さな頃から、話を考えると言う事が好きだった。

「カーチャン、絵本を書いたんだ。」

「あらあら、ドクオはお話を考えるのが好きねえ。」

「僕、将来はお話を考える人になりたい!」

「おやおや、ドクオったらまだこんなに小さいのに
 将来なりたいものを見つけられたんだね。
 えらいねぇ。」


207 名前:(・へ・) 投稿日:2006/11/22(水) 01:24:39.66 id:yBAdpMrj0

それ以前からあった”何となく”で構成されていた気持ちが
始めて心を突き動かすほどの力を持ったのはちょうどこの頃からだ。
多感な中学生期に自己表現の方法として、俺はこれを選んだ。

”物語を作る”

それを、夢と定めた。


208 名前:(・へ・) 投稿日:2006/11/22(水) 01:25:13.51 id:yBAdpMrj0

若い身で夢を見つけるのは立派だと人は言う。
友人や家族も直向に夢を持ち続けて語れるという事は
素晴らしいと褒めてくれた。

だけど、心の内では違った。

俺は努力を怠って、その夢を手にしたのだ。


210 名前:(・へ・) 投稿日:2006/11/22(水) 01:25:41.93 id:yBAdpMrj0

”学力”という誰が見ても分かるもので競争する事から逃げただけなんだ。
”自分の夢”という限りなく競争率の低いもので競争を避けて自己を確立しようとした。

他の人の夢のきっかけがどういうものなのかは分からない。
だけど、俺の場合は少なくとも”逃げる”事を正当化する事から始まった。

競争相手の無い漠然とした自己確立を遂げて俺は中学時代を過ごした。


212 名前:(・へ・) 投稿日:2006/11/22(水) 01:32:41.39 id:yBAdpMrj0

そして次に高校時代の絵。

ブーンとツンと、そしてクーと出会った頃の思い出だ。
連中も、俺と同じような”物語を作る”という夢を持っていて
俺達は自然と夢を語り合う間柄になっていた。

時には意見の不一致から口論に発展して、
絶交だ!といって数日口を利かなかったり…

そうそう。ブーンとツンの洒落にならないケンカもこの時期が一番多かった。
クーと一緒に冷や冷やさせられたもんだ。

夢が少しずつ具体性を持ち始めた時期の思い出で一番盲目的で楽しかった時期だ。


214 名前:(・へ・) 投稿日:2006/11/22(水) 01:34:25.02 id:yBAdpMrj0

短大時代の絵。
就職という現実を前にしてブーンが夢を捨てて
夢を叶える為に副次的に身につけた技術を活かせる仕事に就いて、

俺は夢をあきらめたブーンの分まで夢を追うと言ってのけて
夢だった仕事が出来る会社への就職が決まった。

程なくしてブーンとツンが結婚するという話を聞かされて……
そうこうしている間に10代が終わった。

とても動きの激しい時期だった。


返信2006/11/23 08:51:09

22jigendaddyjigendaddy   ('A`)ドクオが生きるという事について考えるようです-21

221 名前:(・へ・) 投稿日:2006/11/22(水) 02:00:54.52 id:yBAdpMrj0

会社で働く俺の絵。
夢を叶えて就職した後、とにかく盲目的に働いた。
ブーンやツン、クーと何度か酒を飲み交わした思い出。
ジョルジュとの出会い、一緒に凄まじい状態の職場で励ましあってきた思い出。

そして…ブーンが倒れたのに端を発した出来事を思い出し
そこで絵と道は途切れた。

あぁ、そうか。
ここで俺の人生は終わったんだもんな。

何故か無機的で冷たさを感じる時期だった。


223 名前:(・へ・) 投稿日:2006/11/22(水) 02:02:01.28 id:yBAdpMrj0

22年という人生を振り返り、思った。
俺の人生は10代に夢を見つけてそれを叶える為に生きた。
挫けそうになることもあったが、どうにかその夢を叶える事が
出来た。ただ、日々が楽しく刺激的だった。
そして20代。夢を叶えた後の俺はただ日々を会社員として過ごしていた。
ここ数年、あの10代の熱い気持ちと心が日に日に冷めていくような感覚に
陥っていたのは”次の夢”を持てなかったからじゃないだろうか、と。

生きる原動力として”夢”という要素が占めるウェイトは決して小さくない、と。
そんな事を思った。


225 名前:(・へ・) 投稿日:2006/11/22(水) 02:02:43.35 id:yBAdpMrj0

何も”夢”なんていう大層なものでなくてもいい。
当面の目標というものでもよかった。
だが、20代になって俺は目的も目標もなく
手にした仕事と日々の忙しさにかまけて過ごしている内に心が貧しくなって
視野も狭くなってしまった………。


229 名前:(・へ・) 投稿日:2006/11/22(水) 02:03:17.00 id:yBAdpMrj0

ふと前を見ると絨毯敷きの回廊はすっぱりと無くなって、
眼前には遠くに川を映す一面の草原が広がっていた。

三途の川か何かだろうか?

まぁ、何でもいい。
これが死ぬ寸前の脳が見せる妄想でも夢でも、
ここで思い切れば死ねるだろ。

………あの回廊は悪くない、走馬灯だった。


231 名前:(・へ・) 投稿日:2006/11/22(水) 02:04:02.62 id:yBAdpMrj0

草原の上に足を踏み入れる。
音はなく、草を踏んだとき特有の感触もなかった。


川までの距離感は分からなかった。
すぐ近くのような、まだまだ遠いような………


距離感の掴めない川の向こうによく見知った姿があった。


234 名前:(・へ・) 投稿日:2006/11/22(水) 02:05:01.22 id:yBAdpMrj0
俺の脳みそも割りといいサービスしてくれるじゃないか。
最後に、こんなイベントを用意してくれるなんてな。


”よう、迎えに来てくれたのか?”



235 名前:(・へ・) 投稿日:2006/11/22(水) 02:05:37.02 id:yBAdpMrj0

向こうに立つ彼女は何も答えない。
それどころか川の向こうに立つ彼女は顔は見えるのにその表情は
霧がかかっているかのように見えなかった。
笑っているのか、怒っているのか。
どっちだろうか。

駆け足気味に川を目指す。


237 名前:(・へ・) 投稿日:2006/11/22(水) 02:06:53.54 id:yBAdpMrj0

川を目指して歩きながら、考えた。

何故、俺は死のうと思ったのか。
そんな今更ながらな事を考え出してしまった。


ツンからの”想念”を手放したから………
ブーンに返したから。
だから、死のうとした。
俺にはもう”夢”という生きる原動力も生きる理由がなくなったと思って………


”消去法で選んだ末に俺は、今此処にいるんだよな。”


”そうだね。”


239 名前:(・へ・) 投稿日:2006/11/22(水) 02:07:51.78 id:yBAdpMrj0

距離感はつかめないままだったが、確かに彼女の声が俺の頭に届いた。


”お前は、自分で選び取ったのか?
 その………死ぬっていう選択を。”

彼女は何も答えない。
それはそうだ。
あそこに立つ彼女は俺の脳が勝手に作り出した
彼女の幻影だ。
彼女のみが知る事を知り得るわけがない。


241 名前:(・へ・) 投稿日:2006/11/22(水) 02:09:07.21 id:yBAdpMrj0

だけど、彼女は答えた。

”自分に自信が持てない?
 私が自分で死を選んだかどうかなんて
 本当に死のうとしているのなら
 知る必要の無い事でしょ?”


242 名前:(・へ・) 投稿日:2006/11/22(水) 02:09:41.08 id:yBAdpMrj0

そして、

”もう少し、生きてみたら?”


彼女の声は 確かに そう言った。


244 名前:(・へ・) 投稿日:2006/11/22(水) 02:10:25.73 id:yBAdpMrj0

”考えなしに、不安を持ったままここで死ぬよりもどこかに区切りを設けて
 それまで生きて、そこで駄目だと思ってから死んでもいいんじゃないかな?”

霧が晴れるように、彼女の表情が見えた。

都合のいい脳みそだ。
川の向こうに立つ女性にツンの声で、ツンのあの笑顔で
そう呟かせたに違いない。


248 名前:(・へ・) 投稿日:2006/11/22(水) 02:28:10.97 id:yBAdpMrj0

”だけど、俺はもう死にたい。
 だから、これを選んだんだぜ?”

”違う。”


一言で俺の言葉を否定する。
そして、彼女はさらに言葉を繋げた。


”あなたは選び取っていない。”


255 名前:(・へ・) 投稿日:2006/11/22(水) 02:37:48.18 id:yBAdpMrj0

”あなたがあなたの意志で選び取れないならまだ生きなさい。
 消去法での死は私は許さないから。”

口調は険しかったけど、表情はあの時の光を宿した笑顔だった。


ドンドン


何かを叩く音が草原に響き渡る。
聞き覚えのある誰かの声も聞こえた。


返信2006/11/23 08:53:08

23jigendaddyjigendaddy   ('A`)ドクオが生きるという事について考えるようです-22

258 名前:(・へ・) 投稿日:2006/11/22(水) 02:43:31.07 id:yBAdpMrj0

”それじゃあ、またね。”

ニコリと笑ってツンの幻と川が消え………
そして覚醒は唐突に訪れた。


ドンドン

「ドクオー!!無事か!?」


ドアを激しくノックする音とジョルジュの声だ。


260 名前:(・へ・) 投稿日:2006/11/22(水) 02:47:42.00 id:yBAdpMrj0

見慣れた部屋の壁が視界に飛び込み、
ジョルジュの声とドアを叩く音の他、外を走る車の音や電車の音などの
いつもの部屋の外に聞こえる環境音を聴覚が拾った。

身を起こそうとすると正に「頭が割れる」と言うのはこういう事かと
思わされる激しい頭痛に襲われて、次いで胃に激痛が走った。

口元からはよだれのような、少し粘り気を帯びた液体。
どうやら、飲み込んだ大半の睡眠薬は寝ている間に吐き出したらしい。
その錠剤の数を見るに、よくもまあ寝ゲロで死なずに済んだもんだと思った。

ベッドのシーツの上には倒れた酒瓶があり、その中に入っていた酒が
漏れ出してシーツを薄茶色に染めていた。

寝汗と酒の匂いと胃液と錠剤に彩られたシーツはまるで俺の心の縮小図のような
地獄絵図を描いていた。


264 名前:(・へ・) 投稿日:2006/11/22(水) 02:51:34.91 id:yBAdpMrj0

壁にかけられた時計が示す時刻は午後4時。
窓の外に見える景色は昼と夕方の間のような中途半端な明るさで
近所の学校の生徒達が談笑しながら下校する姿が見えた。


「あ………」

薬のせいか、どうにもうまく声が出ない。

冷蔵庫に入ったペットボトルの水を飲んで一息つける。


266 名前:(・へ・) 投稿日:2006/11/22(水) 02:55:32.08 id:yBAdpMrj0

「ドクオー!!おい!いないのか!?」

「あ、あ…、っと。」

声が出るのを確認してドアを開く。


「ドクオ!お前!なに無断欠勤してんだよ!!
 電話にも出ねーし心配したじゃねぇか!!」


268 名前:(・へ・) 投稿日:2006/11/22(水) 02:57:51.35 id:yBAdpMrj0

「へへ、すまねぇ。
 ってか、まだ勤務時間じゃないか。
 何しに来たんだ?」

「上司に言われてお前の様子見に来たんだよ。
 ったく、ここの所机の上の私物を全部片付けたりして
 様子が変だから、もしかしたらよくない事考えてるのかと
 思ったじゃねぇか!」

大当たりだ。


270 名前:(・へ・) 投稿日:2006/11/22(水) 03:02:27.74 id:yBAdpMrj0

「………ちょっと、風邪こじらせたみたいでさ。
 今まで寝てたんだよ。」

「そうか…。
 なんか必要なら薬でもメシでも買ってくるぜ?」

「いいよ。
 大丈夫。買い置きがあるから。」

「そうか?なら、いいけどさ。
 じゃあ、俺、仕事戻るわ。」

「おう。」


「あ、ジョルジュ。」

「なんだ?」

「心配かけた。」

「過去形にすんなよ。
 まだ心配かけてるぜ、お前。」

ニッと笑ってジョルジュは会社へ戻っていった。


272 名前:(・へ・) 投稿日:2006/11/22(水) 03:07:37.98 id:yBAdpMrj0

ドアを閉め鍵をかける。

ふと目に入った床に転がっている携帯に「着信あり」と表示されているのを
確認してディスプレイを覗き込んだ。

ジョルジュと上司からの着信履歴が山のように入っていた。

特にジョルジュなんかは午後に入ってからは約10分置きに電話を
入れてくれていた。


275 名前:(・へ・) 投稿日:2006/11/22(水) 03:10:46.64 id:yBAdpMrj0

「これから、どうしたもんかな。」

シーツを洗いながら、考えた。

昨日一晩で手に入れたのは薬の後遺症か、激しい胃の痛みと頭痛だけで
これからするべき事が何も分からない。


278 名前:(・へ・) 投稿日:2006/11/22(水) 03:16:21.63 id:yBAdpMrj0

蛇口を捻り水を止める。
洗濯機にシーツを放り込む。

「………そうだな。」

ツンが何故死のうとしたのか。
どのようにして死のうと決心するに至ったのか。
それを理解してみようかと思った。


「それまで、生きるか。」

とは言え、その答えを見つけ出すのは相当に困難だろう。

だけど、それでも………
見出してみせる。


返信2006/11/23 08:55:29

24jigendaddyjigendaddy   ('A`)ドクオが生きるという事について考えるようです-23

http://ex17.2ch.net/test/read.cgi/news4vip/1164200281/

14 名前:(・へ・) 投稿日:2006/11/22(水) 23:01:19.30 id:yBAdpMrj0

床に転がっていた携帯を引っ掴み、電話をかける。



「どうした?」

3コールも待たない内にクーが電話に出た。

「よう、クー。
 ちょっと話があるんだけど、いいか?」

「なんだ、急に?」

「ちょっと聞きたい事があってさ。
 ………ツンの事で。」


16 名前:(・へ・) 投稿日:2006/11/22(水) 23:02:42.52 id:yBAdpMrj0

クーはふむ、と一言答えて少し間を置く。


「今は少し立て込んでいてな。
 また後にしてくれないか?」

「そっか。」

「……電話では話しにくい事か?」

「あぁ。」

「なら、直接話を聞こうか?」

「直接?」

「会おうと言ってるんだ。」

「あ?あぁ、そういう事か。
 じゃあこっちからそっちに出向けばいいのか?」



17 名前:(・へ・) 投稿日:2006/11/22(水) 23:04:04.58 id:yBAdpMrj0

「そうしてもらえると嬉しい。
 ………いや、そういえば、ドクオ君仕事があったな?
 ツンから聞いていたが、休日も仕事だったんじゃなかったか?」

「まぁ、ちょっとくらい休んでもバチは当たらないだろ。」

「そうか?
 じゃあ、待ち合わせ時間と場所とかは後でメールする。」

「あぁ。」


電話を切る。

ツンが死のうとした理由を知るには俺は知らないことが多すぎる。

博識で現実的で、そして何よりツンから相談を受けていたクーなら
もしかしたらツンの心の内を知っているかも知れない。
そんな淡い期待と他力本願な考えを胸に俺はクーに話を電話した。


20 名前:(・へ・) 投稿日:2006/11/22(水) 23:04:56.45 id:yBAdpMrj0



矢次早に今度はブーンに電話をかける。

「もしもしだお?」

「よう、ブーン。
 今、電話大丈夫か?」

「大丈夫だお。
 それにしても、珍しいお。
 ドクオから電話してくるなんてだお。」

まずは当たり障りのない世間話を交わす。
俺がブーンから聞こうとしている話は下準備なしに
いきなり切り込むにはあまりにも重い話だ。


21 名前:(・へ・) 投稿日:2006/11/22(水) 23:06:04.63 id:yBAdpMrj0

世間話をしていて俺はブーンの声色が少し明るくなっていた事に気付き、
そう気付いたのとほぼ同時に声の変わり具合に負けない話がブーンの口から飛び出した。

「新しい就職先を探そうかと思うんだお。」

「そっか。
 で、決まりそうなのか?」

「前のプロジェクトで一緒に働いた外の人が
 ちょうど人を欲しがってるようなんだお。
 それで、明日、話を聞きにいくお。」

「そうか。良かったじゃねぇか。
 決まったも同然だろ?」

「ふふ、当たり前だお。」


23 名前:(・へ・) 投稿日:2006/11/22(水) 23:07:12.36 id:yBAdpMrj0


そこで一瞬、会話が途切れる。

「……どうかしたか?」

「いや、なんでもないお。
 ………ちょっと質問していいかお?」

「なんだ?」

「昨日のあの電話は、何だったんだお?」

―――あぁ、あれか。

「さぁてな。
 おまじないみたいなもんだよ。」

「そうかお。」

「あれがどうかしたのか?」

「いいや、何でもないお。」

「あぁ、ところでなブーン。」

「なんだお?」

俺は本題を切り出した。


27 名前:(・へ・) 投稿日:2006/11/22(水) 23:12:46.49 id:yBAdpMrj0

「変な事を聞くようだけど、お前さ、ツンに………その………」

この無神経極まりない質問で、せっかくまた普通に話が出来るようになった
関係を壊してしまうのではないかという不安が走り、その不安が俺を口どもらせる。

「どうしたんだお?」


意を決して言葉を紡ぐ。

「ツンに、暴力とか振るったか?」

言い切ると同時に電話の向こうから明らかに驚いたような呻き声が耳に入り、少し後悔した。


30 名前:(・へ・) 投稿日:2006/11/22(水) 23:18:40.79 id:yBAdpMrj0

「……ツンから、聞いたのかお?」

俺は何も答えず、無言を返す。

「ドクオの言うとおりだお。」
 ブーンはツンを、殴った。
 一度や二度じゃないお。
 毎日毎日、何時間も繰り返し殴り続けたお。」

段々とブーンの声が涙声になっていく。


34 名前:(・へ・) 投稿日:2006/11/22(水) 23:22:34.38 id:yBAdpMrj0

「止めてと泣き叫ぶツンを繰り返し、殴り続けたお。
 擦り傷が出来ても、血が出てもブーンは止められなかった。
 仕事をなくしたダメなブーンに、いつも通りの笑顔でご飯を作ってくれるツンを
 どうしても直視できなかったんだお。
 そして、酔った勢いに任せて…殴って、蹴って、物をぶつけて怪我をさせたお。
 …部屋の隅っこで怯えていたツンの姿は今もまだ夢に見るお。」


35 名前:(・へ・) 投稿日:2006/11/22(水) 23:26:47.32 id:yBAdpMrj0

「出来るなら………」



「ツンにきちんと謝りたいお。
 離婚すると言われてもいい。
 ただ、心から謝りたい。
 今は、そう思っているお。」

ブーンの声は震えていた。



38 名前:(・へ・) 投稿日:2006/11/22(水) 23:30:50.13 id:yBAdpMrj0

「…すまないお。
 また、愚痴を聞かせてしまったお。」

「いや…俺こそ、無神経な事聞いたな。」

「聞いてもらえて、何だか少し気が楽になったお。
 知られて、良かったのかも知れないお。」

ブーンはあはは、と乾いた笑いを上げる。

「軽蔑するかお?」

やや真剣な口調でブーンが呟く。


39 名前:(・へ・) 投稿日:2006/11/22(水) 23:33:34.55 id:yBAdpMrj0

「出来ないよ。」

軽蔑されるのは俺も同じだからだ。
俺はツンを………抱いて、そして見殺しにした。

「悪かった。
 ただ、どうしても聞いておきたかったんだ。
 本当に、すまん。」



最後にいくつかやりとりを交わして電話を切る。
ブーンの震える声を思い出して罪悪感に駆られた。


40 名前:(・へ・) 投稿日:2006/11/22(水) 23:36:08.66 id:yBAdpMrj0

だけど、ツンが死んだ理由を見出すために、俺は生きると決めたんだ。
とにかく、今、俺が選び得る選択肢を滅茶苦茶に
あるだけ全部を選ぶしかなかった。
それはとても醜い足掻きで、傍から見れば何をしているのか
理解に苦しむ行動だったと思う。

だけど、皮肉にもデタラメに動き回っている時
俺は僅かに”それ”を忘れる事が出来ていた。
実に皮肉にも………

返信2006/11/23 09:27:06

25jigendaddyjigendaddy   ('A`)ドクオが生きるという事について考えるようです-24

45 名前:(・へ・) 投稿日:2006/11/22(水) 23:46:40.97 id:yBAdpMrj0
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昼休みの始まりを告げるチャイムがフロアに鳴り響く。

「かぁ~!メシだ!」

ジョルジュが嬉しそうに立ち上がり大きく伸びをする。

「おやおや、ジョルジュ君は相変わらず食欲旺盛だねぇ。」

「腹が減っては戦は出来ない、っすよ!」

「タハァー、こやつめ。」

上司とジョルジュの何気ないやりとりを見て、つい笑みがこぼれ、
ジョルジュがそんな俺の視線に気付いてニヤニヤしながら席に寄って来る。

46 名前:(・へ・) 投稿日:2006/11/22(水) 23:49:33.60 id:yBAdpMrj0
そして俺の方をガシッと掴んで

「なぁ~にニヤニヤしてんだよ?
 オラ、メシ行くぞ!」

「あ、あぁ…いや、すまん。
 今日はちょっと止めとく。」

ジョルジュの誘いは嬉しかったが、俺はその誘いを申し訳なさそうに断った。
ジョルジュは?マークが出そうな怪訝そうな顔をする。

「あん?メシ食わないのか?」

「ちょっと腹具合が悪くてさ。」


49 名前:(・へ・) 投稿日:2006/11/22(水) 23:52:50.83 id:yBAdpMrj0

軽く腹をさすりながらへへっと笑いながら答える。
この間の睡眠薬の大量摂取以降、薬のせいかどうしても
胃が固形物を受け付けなくなっていた。


50 名前:(・へ・) 投稿日:2006/11/22(水) 23:55:12.29 id:yBAdpMrj0

「そうなんか?
 そりゃいかんな。」

ジョルジュはそう言って机の中から薬と何かのパックを取り出し
それを俺の机の上に置いてくれた。

「ウィダーインゼリーとセイロガンだ。
 これでとっとと体調直せよ。」

いつものニカッという効果音の付きそうな豪快な笑みを見せる。

胃の調子と断続的に来る頭痛を除いて、日常は暫定的に元の色を
取り戻したような気がした。
あくまで、暫定的に。


54 名前:(・へ・) 投稿日:2006/11/22(水) 23:58:32.35 id:yBAdpMrj0



クーと会う約束の日を数日後に控えた日の夜。
久方ぶりにブーンの方から電話がかかってきた。


「ドクオ。
 ちょっといいかお?」

その声は以前、話した時と同じ明るさを持った声だった。
第一声を聞いてそう判断して、まずはホッとする。



「再就職先が決まったんだお。」


55 名前:(・へ・) 投稿日:2006/11/22(水) 23:59:25.07 id:yBAdpMrj0

その言葉を聞いた途端、考えるよりも先に言葉が出た。
心の底から祝福の言葉が。

「そっか!
 良かったじゃねぇか!
 おめでとう!!」

「ありがとうだお。」


56 名前:(・へ・) 投稿日:2006/11/22(水) 23:59:43.93 id:yBAdpMrj0

バカみたいに「おめでとう」を繰り返す。
少し前…ブーンが呪いを吐いていた頃には考えられなかった。
ブーンからの話も、こうして俺がブーンを祝福出来る事も。
昼間に感じたいつもの色が俺達の間にも戻りつつあると思えた。

だが…


60 名前:(・へ・) 投稿日:2006/11/23(木) 00:03:14.94 id:tJnLi/7X0

「人間はやり直すことが出来るという事を証明出来たお。」

ブーンはゆっくりと、俺に語り聞かせるような口調でそう言った。

「あ、あぁ?そうだな。」

「なぁ、ドクオ。
 知っているなら、でいいんだお。
 ツンは、どこにいるか教えてくれないかお?」


61 名前:(・へ・) 投稿日:2006/11/23(木) 00:04:44.46 id:tJnLi/7X0


「ドクオの所にツンがいるとは思っていないお。
 ………極端な話、ツンはまだ生きていると思うかお?」

「なんで、そう、思ったんだ?」

「ツンの部屋に、それらしい痕跡があったんだお。」




64 名前:(・へ・) 投稿日:2006/11/23(木) 00:06:37.69 id:tJnLi/7X0

「ドクオ。頼むお。
 知っているのなら、教えて欲しいお。」

ブーンのその言葉には並々ならない覚悟が宿っていた。
何を伝えられても受け止めてみせる、という…そんな覚悟。
その覚悟を汲み取って、俺は答えた。


「…死ぬ、って言ってた。」


67 名前:(・へ・) 投稿日:2006/11/23(木) 00:09:54.64 id:tJnLi/7X0

我ながら肝心な所を濁した卑怯な答えだと思う。
俺はツンの最期を看取ったじゃないか。
最期の後姿が”聞こえなくなるまで”立っていたじゃないか。
罪悪感に似た後味の悪い感情が頭を駆け巡る。

「そうかお。
 ………分かったお。
 教えてくれて、ありがとう。」

自分で言って自分で困惑している俺をよそに
ブーンは、さらりと礼を述べた。


70 名前:(・へ・) 投稿日:2006/11/23(木) 00:12:34.69 id:tJnLi/7X0


「ドクオ。
 聞いてくれるかお?」

「なんだ…?」

「今更だけど、家庭は人生の負債だと、ブーンは思うお。
 やっぱり、ブーンは独りでいるべきだった。
 ツンには、たくさん迷惑をかけたお。」

そこからブーンの長い懺悔が始まった。


73 名前:(・へ・) 投稿日:2006/11/23(木) 00:15:06.94 id:tJnLi/7X0

先にいったツンへの謝罪。
ツン方の父親に預けた娘への謝罪。
俺やクーへの謝罪。
その他、ブーンが関わった見知らぬたくさんの人への謝罪。

その謝罪の言葉に違和感を感じ、
違和感は一つの疑問になり、それはすぐに確信へと変わった。


75 名前:(・へ・) 投稿日:2006/11/23(木) 00:17:09.53 id:tJnLi/7X0

「ブーンがツンを殺してしまったんだお。
 だから、責任を果たそうと思うんだお。」

「責任を果たす?」

「ツンの後を追うお。」


返信2006/11/23 09:00:48

26jigendaddyjigendaddy   ('A`)ドクオが生きるという事について考えるようです-25

79 名前:(・へ・) 投稿日:2006/11/23(木) 00:19:29.04 id:tJnLi/7X0



「な、に……言ってんだ?」

「居なくなってやっと分かったんだお。
 ブーンはツンを本当に愛していた。
 本当に本当に、本当に、愛していた!」

「何を今更…」



俺の言葉を遮ってブーンは尚も言葉を繋げる。


82 名前:(・へ・) 投稿日:2006/11/23(木) 00:23:26.31 id:tJnLi/7X0

「最初は子供が出来たから、何となくで結婚をしたお。
 だけど…あぁ、だけど今になって分かったんだお!!
 ツンは、ブーンの人生に居なくてはならない…
 何よりも、何者よりも大切な存在だったんだお!!」

このせかいに居ないツンへ叫ぶように、ブーンは告白した。

その迫力に気圧されそうになるが、ブーンの告白には
大事な事が欠けている。


84 名前:(・へ・) 投稿日:2006/11/23(木) 00:25:10.19 id:tJnLi/7X0

「娘は!?デレちゃんはどうするんだよ!?」

「大丈夫だお。
 生命保険はちゃんと掛けてあるお。
 その金と今までの貯金があればデレが成人するくらいまではもつお。」

「金の問題じゃないだろ!?」

「でも、それがあれば生きていけるお。
 ツンの親もデレを可愛がっているお。」

「デレちゃん置いてツンの後を追うのが本当に
 責任を果たすって事になるのか!?」

「だから言ったお。」


87 名前:(・へ・) 投稿日:2006/11/23(木) 00:27:39.68 id:tJnLi/7X0




「ブーンは誰よりも………娘よりもツンを愛しているお。」

「言ってる事、滅茶苦茶だぜ。」

「ブーンもそう思うお。
 正直に言うと、これはもう半分、意地みたいなもんなんだお。」

「だったら、娘さんをちゃんと育ててからにしろよ!」


91 名前:(・へ・) 投稿日:2006/11/23(木) 00:30:13.64 id:tJnLi/7X0

「それが出来ないから、ブーンは家庭を持つべきじゃなかったんだお。
 確かに、娘は…デレはこの広い世界に僕とツンの遺伝子を持ったたった一人の存在だお。
 だけど、どうしてなんだろうかお。
 どうしても、それが客観的にしか見えないんだお。
 とても身近な事なのに、そう感じられないんだお。
 案外、ニュースとかになってる自分の子を虐待する親はみんな
 ブーンと同じ考えなのかも知れないお。」

「ツンは死後の世界信じて無かったぜ?」

「関係ないお。
 死後の世界があろうと無かろうと、関係ないんだお。
 ブーンは、ブーンの意地を通してやるんだお。」

言い放ったブーンの言葉には何の迷いもなかった。


94 名前:(・へ・) 投稿日:2006/11/23(木) 00:33:03.61 id:tJnLi/7X0


「お、俺のせいか?」

「お?」

「ツンへの暴力の事を根掘り葉掘り聞いたから…それで………」

「自惚れるんじゃないお。」


95 名前:(・へ・) 投稿日:2006/11/23(木) 00:34:47.20 id:tJnLi/7X0


「ブーンは、ブーンだお。
 ドクオ如きに心を突き動かされたりはしないお。
 ブーンは自分の意志で、決めたんだお。」

久しぶりに聞いた、ブ-ンの強気な発言だった。
学生の頃、よく凹まされた自信たっぷりの言葉………

それは紛れも無く俺がよく知る男、
俺が尊敬した男…内藤ホライゾンの言葉だった。

98 名前:(・へ・) 投稿日:2006/11/23(木) 00:36:19.09 id:tJnLi/7X0

「せっかくだから、もう一つだけ伝えておくお。
 ドクオは、多分ブーンと一緒だお。」

「どういう事だよ?」




「ドクオは絶対に幸せにはなれない。」


101 名前:(・へ・) 投稿日:2006/11/23(木) 00:38:17.45 id:tJnLi/7X0


「な、なんだよ?
 それ………?」


「最後まで聞くんだお。
 そして、忘れないで欲しい。
 例え、幸せがなくても、苦しみしかなくても…」




 ―――お前は、生き続けるんだ。


106 名前:(・へ・) 投稿日:2006/11/23(木) 00:39:58.12 id:tJnLi/7X0


「道は示したお。
 人はやり直せる。
 だから、頑張るお。」

道を示した?
それは、もしかして懲戒免職を受けたブーンが
再就職が決まったという事を指すのだろうか?

「それじゃあ、さようならだお。
 どうか、元気で生きていくんだお。」

考えをまとめる間もなく、ブーンは電話を切った。


返信2006/11/23 09:02:34

27jigendaddyjigendaddy   ('A`)ドクオが生きるという事について考えるようです-26

108 名前:(・へ・) 投稿日:2006/11/23(木) 00:41:17.27 id:tJnLi/7X0


わけがわからなかった。


さっきまで、本当についさっきまでいつもと同じように
話が出来たのに。
学生の頃に見せた自信たっぷりな発言も聞けたのに
なのに

「なんで、いきなりそんな迷いもなく死ぬとか言うんだよ?」


111 名前:(・へ・) 投稿日:2006/11/23(木) 00:42:29.91 id:tJnLi/7X0

電話をかけなおしても電話は繋がらない。
不安を募らせて、一睡も出来ずに朝を迎えた。




翌日の昼、ブーンが死んだとブーンの親から連絡があった。
本当に、ブーンはあっさりとやってのけたのだ。

死因は事故死。
車に飛び出して死んだらしい。


113 名前:(・へ・) 投稿日:2006/11/23(木) 00:44:04.15 id:tJnLi/7X0

傍から見れば事故死。
だけど…実情は………自殺。
手の込んだ自殺じゃないか。
見も知らぬ、ブーンを轢き殺したドライバーに心から同情する。


115 名前:(・へ・) 投稿日:2006/11/23(木) 00:45:55.89 id:tJnLi/7X0




絶望感と喪失感に打ちのめされる。
どうしてこうも簡単に死ねたんだ?
俺には出来なかったのに…。
きゅっと胃が痛む。

そんな俺をよそにブーンの親は俺に葬式に出て欲しいと申し出て来て、
俺はそれを承諾した。


117 名前:(・へ・) 投稿日:2006/11/23(木) 00:47:36.17 id:tJnLi/7X0

そしてブーンの葬式の日、残り少ない有給を使って
俺は日帰りでブーンの告別式場へ向かった。
淡々とした葬式、棺桶には二度と動くことのないブーンが収められていた。


周囲の目を盗んで、そっとその顔に触れる。
とても冷たくて、それがブーンだったとは信じられなかった。


119 名前:(・へ・) 投稿日:2006/11/23(木) 00:49:45.12 id:tJnLi/7X0


”ドクオは絶対に幸せにはなれない。
 例え、幸せがなくても、苦しみしかなくても…
 ―――お前は、生き続けるんだ。

 道は示したお。
 人はやり直せる。
 だから、頑張るお。”



ブーンの最期に残した言葉が反芻する。
幸せの定義が何かは知らないが、実に嫌な一言を残して死んだものだ。


124 名前:(・へ・) 投稿日:2006/11/23(木) 00:52:59.51 id:tJnLi/7X0

当然の事ながらブーンの部屋からは遺書の類は何も見つからなかったらしい。

だけど、遺言とその意志は俺が確かに受け取った。


ちっぽけな、ブーンの精一杯の真心で作られた”証明”。
ツンから託され、ブーンへ返したはずの”想念”。

その二つは 確かに 受け取った。


返信2006/11/23 09:04:57

28jigendaddyjigendaddy   ('A`)ドクオが生きるという事について考えるようです-27

138 名前:(・へ・) 投稿日:2006/11/23(木) 01:30:07.88 id:tJnLi/7X0
----------------------------

告別式場。
顔以外を黒一色に染めた人々が取る態度は大きく二種類に別れていた。
悲しそうに俯くか、あるいはブーンとは別段親交はなかったが付き合いや世間体を考えて
悲しそうなフリをするか。
そのどちらかで、本心から悲しんでいるか、フリをしているだけかは容易に判別がついた。


”………今の俺の姿はどちらに見えるのだろう?”


140 名前:(・へ・) 投稿日:2006/11/23(木) 01:32:38.43 id:tJnLi/7X0

式場でツンの父親の姿を見かけた。
ブーンの両親と穏やかならぬ表情で話をしている。

それはそうだろう。
ツンは未だに「行方不明」で、ブーンとツンの娘の親権や
ブーンの保険金の事やこれからの養育費など
決めなければならない事は山のようにある。


141 名前:(・へ・) 投稿日:2006/11/23(木) 01:33:07.77 id:tJnLi/7X0

現実問題、無責任な話だとは思う。

だけど、責めるべき相手は既に居ない。

改めて自殺は究極の責任逃避だと思わされる。


144 名前:(・へ・) 投稿日:2006/11/23(木) 01:36:38.35 id:tJnLi/7X0

「あ、おじちゃん……。」

両家の気まずい空気に耐えかねて、ブーンとツンの娘、
デレが俺の元に駆けて来た。

「よう、デレちゃん。久しぶり。
 俺の事覚えててくれたんだな。えらいぞ!」

小さい子は物覚えがいいと言うが、ほんの二・三度顔を
あわせただけの俺の顔を覚えていたのには驚いた。


146 名前:(・へ・) 投稿日:2006/11/23(木) 01:39:00.03 id:tJnLi/7X0

「あのね、おじちゃん。」

少し困ったような顔でブーンの棺桶を指差す。

「お父さんね、ずっと寝てるの。」


148 名前:(・へ・) 投稿日:2006/11/23(木) 01:40:28.26 id:tJnLi/7X0
「いつ目を覚ますの?」

「おじいちゃんもおばあちゃんもずっと怒ってるの。
 デレ、悪い事したのかな?」

「お父さんがね、目を覚ましたらデレ、お母さんみたいに
 ビールをコップについであげるんだ~。」

小説やマンガでしか聞いたことの無いような台詞が次々と耳に刺さる。


150 名前:(・へ・) 投稿日:2006/11/23(木) 01:43:47.94 id:tJnLi/7X0

(あぁ、マンガなんかだったら別に何とも思わなかったけど…
 実際に、目にすると…すげぇやるせない気持ちになるんだな………)

思わず涙腺が緩む。
だけど、泣くわけにはいかない。

「デレちゃんが良い子にしていれば
 その内目を覚ますよ。」


152 名前:(・へ・) 投稿日:2006/11/23(木) 01:44:34.78 id:tJnLi/7X0

「本当?
 またブーンしてくれる?」

「してくれるさ。」

「お母さんも帰ってくる?」

「ああ………」

口から漏れたその言葉は肯定の返事ではなく
最早、答えにならない呻き声だった。


155 名前:(・へ・) 投稿日:2006/11/23(木) 01:49:04.26 id:tJnLi/7X0

「どうしたの?おじちゃん?」

デレが不思議そうに俺の顔を覗きこむ。
俺は、ツンの面影を持つ少女の顔を直視出来なかった。


158 名前:(・へ・) 投稿日:2006/11/23(木) 01:50:45.75 id:tJnLi/7X0


「ドクオ君。」

聞きなれた声のする方向を見ると、喪服を身に纏ったクーの姿があった。

「クー。
 ………久しぶりだな。」

「そうだな。
 デレちゃんも元気だったか?」

クーが優しく微笑みながらデレに視線を合わせる様にしゃがんで
話しかけたが、デレはおずおずと俺の後ろに隠れて、少し怯えたように
クーを見ていた。


160 名前:(・へ・) 投稿日:2006/11/23(木) 01:52:45.99 id:tJnLi/7X0

「む………私を、覚えてないか?」

デレはこくんと頷く。

「そうか…。
 お母さんの友達のクーだ。
 クーお姉さんと呼んでくれ。」

「お母さんの友達?
 本当?おじちゃん?」

「あぁ、本当だよ。」

デレはふぅん、としげしげとクーを見つめてにっこりと笑った。
クーもそんなデレに優しく微笑み返す。
デレの笑顔は、ツン譲りだと思った。


163 名前:(・へ・) 投稿日:2006/11/23(木) 01:58:18.77 id:tJnLi/7X0

「デレちゃ~ん!
 こっちにおいで!」

ツンの父親がデレを呼び、振り返った俺とクーと目が合った。
お互いに軽く会釈する。

「じゃあおじちゃん。クーお姉ちゃん。
 またね!」

ぶんぶんと力いっぱい手を振ってデレちゃんはツンの父親の元へ駆けていった。
何度も何度も、俺達を振り返りながら。

ぎゅっ、とクーがバッグを強く握ったのが見えた。
俺も、気が付けば拳を強く握っていた。


167 名前:(・へ・) 投稿日:2006/11/23(木) 02:01:55.94 id:tJnLi/7X0


葬式の後、俺とクーは人気の無い道を並んで歩いていると
クーは俺の姿を横目で見て呟いた。

「それにしても、おじちゃんか。」

「何だよ?」

「普段は学生に見える君も、デレちゃんにはおじさんっぽく見えるようだな。」

クーはいたずらっぽく微笑む。
俺はムッとして軽く怒った表情を作る。

ほんの少し、気が和らいだ。


返信2006/11/23 09:06:49

29jigendaddyjigendaddy   ('A`)ドクオが生きるという事について考えるようです-28

168 名前:(・へ・) 投稿日:2006/11/23(木) 02:02:40.30 id:tJnLi/7X0

「なぁ、クー。」

「なんだ?」

「死ぬ前にさ…ブーンから電話があったんだ。」

笑っていたクーの表情が急に真剣になる。

「娘よりも、ツンの後を追うことを選ぶって、そう言ってた。」

「そうか…。
 分かってはいたが、自殺だったんだな。」

「………あぁ。」


172 名前:(・へ・) 投稿日:2006/11/23(木) 02:07:05.92 id:tJnLi/7X0
「なぁ、クー。
 あいつは、間違ってるよな?
 生きてる娘を置いて…ツンを………選んだっていうのは。」

「なぁ、ドクオ君。
 …話を変えるようで悪いが、聞いてくれるかな?」

「なんだ?」

「ツンは最期に笑っていたか?」

クーの鋭い視線が俺を射抜く。
蛇ににらまれた蛙のように、身体が動かなくなったような気がした。


174 名前:(・へ・) 投稿日:2006/11/23(木) 02:08:17.81 id:tJnLi/7X0

「本当の事を話すよ。」

一度視線を空に向けて、深く息を吸ってクーは話し始めた。

「ツンから、ツンが音信不通になる前の日に、連絡があったんだ。
 明日、樹海で死ぬとな。」

心臓が恐ろしい速さで高鳴る。
一枚一枚、見られたくない事を剥ぎ取っていくような
クーの言葉にはそういう刃のような冷酷さと鋭さが込められていた。

「君に見送られて死ぬと、そう言っていた。」



176 名前:(・へ・) 投稿日:2006/11/23(木) 02:11:24.90 id:tJnLi/7X0




「………知ってたんだな。」

自分でも驚くほど冷静な声で俺は答えた。

「あぁ、知っていた。
 すまない。」


178 名前:(・へ・) 投稿日:2006/11/23(木) 02:14:13.01 id:tJnLi/7X0

「あとは君とツンが一夜を共にした事も、知っている。」

「カマかけか?」

「そう思うか?」

「………あぁ。」

「そう思いたい気持ちはよく分かるが、な。
 君が知られたくないと思っている事は大体把握しているつもりだ。」

そこまで聞いて把握した。
”私には嘘は無しにして欲しい”と言ったクーの真意が。


180 名前:(・へ・) 投稿日:2006/11/23(木) 02:15:56.59 id:tJnLi/7X0

「勘違いしないでくれ。
 私は何も君を咎めるつもりはない。」

「え?」

目と言葉に鋭さと冷たさは残ったままだったが、思いもしなかった
クーの言葉に一瞬、緊張が解れる。



182 名前:(・へ・) 投稿日:2006/11/23(木) 02:16:53.64 id:tJnLi/7X0

「学生時代、ツンは君に気があったんだ。
 確かな好意ではなかったにせよ、あの頃から
 ツンは異性の友人が少なかったからな。
 ブーンか君か、それくらいしかいなかった。」


本当は会った日に話すつもりだったんだがな…
そう一言言って、そして、淡々と語り始めた。

「ブーンに虐待されて苦しかった時期に
 楽しかった時期を想起して思ったんだろう。
 ブーンと君という選択肢の中から君を選んでいたら、という事をな。
 あの頃、ツンは電話でもよく話していたよ。
 学生の頃の事を懐かしむように、な。」


185 名前:(・へ・) 投稿日:2006/11/23(木) 02:18:56.73 id:tJnLi/7X0

「さっきも言った通り私は君を責めはしない。
 軽蔑したりもしない。
 仮初めながら、君への屈折した想いは僅かだったとは言え
 確かにツンの生命を繋ぎとめていたんだと、私は思うから。」

屈折という言葉にツンのあの壊れた笑顔を連想する。


187 名前:(・へ・) 投稿日:2006/11/23(木) 02:20:54.88 id:tJnLi/7X0

「それに、思うんだ。
 私達はまだ20代前半だ。
 君もブーンも勘違いしているようだが、きっと20代前半の人間なんて
 まだまだ子供で心もうつろいやすいものなんだと、私は思う。
 本当に困ったとき、見つけ出せる選択肢は”大人達”に比べて
 きっと驚く程に少ないのだろうな。」


189 名前:(・へ・) 投稿日:2006/11/23(木) 02:21:41.21 id:tJnLi/7X0

「若さの上に、ブーンもツンも、君も、そして私も………
 実に狭い人間関係の間でしか生きてこなかったからだろうな。
 一人が苦しくなると連鎖的に苦しみが広がる。
 なまじ、互いを繋ぎとめているのは友情という切り捨てにくいものだから
 尚の事、対処に困る。」


190 名前:(・へ・) 投稿日:2006/11/23(木) 02:22:20.28 id:tJnLi/7X0

「さっきの質問の答えを私なりに述べさせてもらう。」

さっきの質問?
一度頭の中で復唱して理解した。


”なぁ、クー。
 あいつは、間違ってるよな?
 生きてる娘を置いて…ツンを………選んだっていうのは。”


192 名前:(・へ・) 投稿日:2006/11/23(木) 02:23:19.44 id:tJnLi/7X0

「みんながみんな、ある意味で狂っていた。
 視野が狭くなっていた。
 そして、狭い視野のままに我を通したんだ。
 誰も間違っては居ない。
 ツンを拒めず抱いた君も、
 君に歪な傷跡を残して死んだツンも、
 全ての責任を放棄して死んだブーンも、
 そして、全部知りながら傍観者を通した私も。
 だから、今だけでいい。
 信じろ。
 思い込め。
 誰も間違っては居ない、と。」


194 名前:(・へ・) 投稿日:2006/11/23(木) 02:23:56.68 id:tJnLi/7X0

「だけど、そのせいでデレちゃんは………」

「例え、君や私がどれだけブーンの選択に異を唱えても
 ブーンの主観では、それは間違いにはならないんだ。」

「…どういう事なんだ?」

「………正しいも間違いもないんだ。
 ブーンは死んで、デレちゃんは両親を亡くしたまま生きていかなければならない。
 そこに横たわる現実を前に正しいも間違いも、存在しないんだ。」

「横たわる…現実……?」


196 名前:(・へ・) 投稿日:2006/11/23(木) 02:26:03.26 id:tJnLi/7X0

「それに、揚げ足を取るようで何だが君の正しいか間違いかという
 ”意味のない答え”をブーンにあてがうなら君の行動もまた
 間違いとされなければならなくなるんだぞ?」

俺の行動も、間違いとされる?

ハッとして気付く。
元を正せば、俺があの日、このせかいから去ろうとするツンを止めていれば
もしかしたらこうはならなかったのかもしれない…
そんな期限切れの可能性を想像した。

そうだ。
もう、期限切れなんだ。

いくら間違いだと叫んでも、現実はもう変わらない。

ブーンは死んでデレちゃんは両親のいないまま生きていかなければならない…。

”意味のない答え”………全くだ。
俺は、的外れな事を考えていたんだな…。


197 名前:(・へ・) 投稿日:2006/11/23(木) 02:27:30.59 id:tJnLi/7X0

例えようの無い何かに打ちのめされて俺は空を仰いだ。

そっと、俺の手に柔らかいもの触れる。
クーの手だ。


「なぁ、ドクオ君。
 ウェルテル効果という現象を知っているか………?」

クーは俺と手を繋ぐ格好で、どこか遠く、空の向こうを見つめながら言葉を紡いだ。


200 名前:(・へ・) 投稿日:2006/11/23(木) 02:29:10.17 id:tJnLi/7X0

「大切な人が死ぬことで 連鎖的にその人に近しい人々が
 死んでいく現象………
 ゲーテの著書。
 ”若きウェルテルの悩み”という作品に由来する現象だ。」


瞳を閉じて、クーは俯く。


「君はどうする?」




201 名前:(・へ・) 投稿日:2006/11/23(木) 02:30:27.97 id:tJnLi/7X0



―――死ぬのか?


―――それとも、生きるのか?





204 名前:(・へ・) 投稿日:2006/11/23(木) 02:31:44.10 id:tJnLi/7X0

「私はデレちゃんのことも心配だ。
 だけど、あの頃の…大切な友達である君がどうするのか。
 それが心配なんだ。」

それまで淡々と話をしていた冷たい表情から打って変わって、クーの表情が
悲しみに染まる。

「クー…?」

「これ以上、私は友達に死んで欲しくない。
 だからッ!!」


208 名前:(・へ・) 投稿日:2006/11/23(木) 02:34:56.18 id:tJnLi/7X0

叫びながら、クーが俺に胸に飛び込む。
体勢を崩しそうになりながら、しっかりとクーを抱き止める。

「今は何も考えないで!!
 何が正しいことで何が間違いなのかは
 今だけは忘れて!!」


俺の顔に胸を埋めてクーは泣いていた。


211 名前:(・へ・) 投稿日:2006/11/23(木) 02:36:27.41 id:tJnLi/7X0


「………だから、死なないで。」

小刻みに震えるその肩をしっかりと支えるように、包み込むように抱きしめる。

考えなければならない事を
考えようと思った事を
全て、考えるのを後回しにして………

俺は暫定的な赦しに甘んじた。


213 名前:(・へ・) 投稿日:2006/11/23(木) 02:37:21.95 id:tJnLi/7X0



曖昧で無責任で適当な距離感を持った俺達の関係はこうして始まった。




返信2006/11/23 09:09:22

30jigendaddyjigendaddy   ('A`)ドクオが生きるという事について考えるようです-29

262 名前:(・へ・) 投稿日:2006/11/23(木) 23:00:09.35 id:tJnLi/7X0

季節は巡る。
俺達が身を寄せ合い始めてから秋は冬へと移り変わった。


ある時にはツンの影を求めて、ある時には寂しさを埋める為に
俺はクーに甘え続けた。

それでもクーは何も言わずに、受け止めてくれて
俺は、この曖昧な無責任さと自由さが確かに存在する距離感に
心地良さを感じていた。


265 名前:(・へ・) 投稿日:2006/11/23(木) 23:01:30.97 id:tJnLi/7X0

吹きすさぶ冬の風が街を撫でる。
風に震える樹が窓越しに見えた。
外とは打って変わって暖かいホテルの一室。

すぐ傍にはクーがいて、俺の指にはツンを想起させる煙草があった。

クーの腰に手を回すとクーは何も言わずに
身体を寄せて俺の肩に顔を乗せる。


だけど、分かっている。
これは暫定的なものに過ぎないのだと。


267 名前:(・へ・) 投稿日:2006/11/23(木) 23:02:23.68 id:tJnLi/7X0

暫定とは仮定。
臨時の措置に過ぎないのだ。

そろそろ、見出さないといけないと思う。

ツンと、ブーンの…二人の為に。
そして何より、俺の為にも。



269 名前:(・へ・) 投稿日:2006/11/23(木) 23:06:00.97 id:tJnLi/7X0

「あいつさ………」

クーは俺の肩から顔を離して俺の目を見る。

「家庭を持った事を後悔してたよ。」

「知っている。」

静かに答えてぐっと残ったビールを飲み干し
缶を弄びながらクーは言葉を紡いだ。

「ツンから相談されたよ。
 ブーンに酷いこといわれたって。」

グシャリと缶を潰してゴミ箱に缶を投げ捨てる。


272 名前:(・へ・) 投稿日:2006/11/23(木) 23:08:23.87 id:tJnLi/7X0

「お前なんかと結婚しなきゃよかったと言われた事や
 振るわれた暴力の内容を事細かに話されたりな………。
 あとはツンが娘さんに手をあげてしまった事とか
 いろんなことを聞いた。」


クーはそこまで言ってため息を一つ漏らして
冷蔵庫からもう一本、ビールを取り出す。

「君も飲むか?」

俺の答えを聞くよりも先にクーはビールをもう一本冷蔵庫から
取り出して俺に向かって放り投げてきた。


274 名前:(・へ・) 投稿日:2006/11/23(木) 23:10:53.64 id:tJnLi/7X0

「今夜は、少し酔った方が良さそうだな。」

いつものクーのやり方だ。
ブーンとツンの、俺が知りたいと思う事を問いかけようとする時に
使ういつもの手。

酔わせ、忘れさせるやり口だ。


276 名前:(・へ・) 投稿日:2006/11/23(木) 23:12:29.38 id:tJnLi/7X0

「今日は、止めとくよ。」

「ビールは嫌か?
 仕方のない人だな、君は。
 じゃあブランデーでどうだろう?
 私の奢りでいいぞ?」

そう言ったクーの口調も表情も穏やかなものだったが
クーは明らかにこの話題を拒んでいた。



”もう少し後回しにしてもいいんじゃないか?”


そんなクーの心の声が聞こえたような気がした。


278 名前:(・へ・) 投稿日:2006/11/23(木) 23:15:03.16 id:tJnLi/7X0

ベッドから立ち上がる。
途端にクーはとても真剣な表情になって、
またため息を一つ漏らした。

「今夜は、冷えるな。」

やけに小さな窓をどこか物寂しそうに見つめて、
クーは背を向けて俺の問いかけを待った。


暫定的な赦しに甘えて保留にしていた問題を紐解く。


281 名前:(・へ・) 投稿日:2006/11/23(木) 23:17:17.08 id:tJnLi/7X0

「なぁ、クー。
 ツンは、どうして死のうと思ったんだ?」


クーは手にしていたままだったビールのプルタブを開けて飲む。
ふぅ、と一息ついて口を開いた。


「自ら、ブーンと君と板ばさみになって考える事が嫌になったんだろう。
 デレちゃんの事、ブーンとのこれからの事、君への罪悪感………
 少なくとも、ツンはそれに真っ向から向き合う事に疲れたから死ぬと…
 そう言っていた。」


283 名前:(・へ・) 投稿日:2006/11/23(木) 23:20:01.36 id:tJnLi/7X0

「本当に、それだけなのか?
 たしかに山積みの問題だけど、
 一つ一つ解いていけばいつかは解決したかも知れな………」

途中でクーが遮る。

「”本当の事”なんて分からないよ。
 そもそも、分かるわけが無い。
 私はクーだ。
 ツンではない。」

その鋭い言葉には、俺への敵意が隠されているように思えた。




”君、途中でツンの名前を呼んでいたぞ”





285 名前:(・へ・) 投稿日:2006/11/23(木) 23:22:50.94 id:tJnLi/7X0

「すまん。」


クーは無言を守ったままだった。
ビールの缶を備え付けの冷蔵庫の上に置いて
ゆっくりと俺を通り過ぎて、俺の後ろにあるベッドに腰掛けた。

「逆に聞かせてもらってもいいかな?」

頷く。

「ブーンはどうして死んだ?」



287 名前:(・へ・) 投稿日:2006/11/23(木) 23:24:08.59 id:tJnLi/7X0

”ブーンがツンを殺してしまったんだお。
 だから、責任を果たそうと思うんだお。”

まるでその時を待っていたかのように、ブーンが死ぬ前に残した言葉が
次々と頭の中に流れてくる。


”ツンの後を追うお。”

”居なくなってやっと分かったんだお。
 ブーンはツンを本当に愛していた。
 本当に本当に、本当に、愛していた!”

”最初は子供が出来たから、何となくで結婚をしたお。
 だけど…あぁ、だけど今になって分かったんだお!!
 ツンは、ブーンの人生に居なくてはならない…
 何よりも、何者よりも大切な存在だったんだお!!”


289 名前:(・へ・) 投稿日:2006/11/23(木) 23:26:37.84 id:tJnLi/7X0



”ブーンは誰よりも………娘よりもツンを愛しているお。”




291 名前:(・へ・) 投稿日:2006/11/23(木) 23:29:12.12 id:tJnLi/7X0


「ツンを愛していると分かったから。
 最愛の人を死なせてしまった責任を取るから、って言ってた。」


それを聞いてクーは僅かに驚きを見せた。
だけど、きちんと把握したという旨を小さく頷いて俺に伝えた。



293 名前:(・へ・) 投稿日:2006/11/23(木) 23:31:54.40 id:tJnLi/7X0

”正直に言うと、これはもう半分、意地みたいなもんなんだお。”

”死後の世界があろうと無かろうと、関係ないんだお。
 ブーンは、ブーンの意地を通してやるんだお。”

”ブーンは、ブーンだお。
 ドクオ如きに心を突き動かされたりはしないお。
 ブーンは自分の意志で、決めたんだお。”


「あとは意地。
 自分の意志に従って、我を通すって言ってた。」



そして、改めて理解する。


295 名前:(・へ・) 投稿日:2006/11/23(木) 23:34:20.96 id:tJnLi/7X0

「………ツンもブーンも自分なりのケジメをつける為に、
 自分を通す為に………自ら、選んだんだな。
 何の迷いもなく、自分に従って。」

例え、第三者からは”逃げた”としか見られなくても
二人は、自分を貫いたという事を。

大丈夫。
そう思えるなら、俺は、これを掲げられる。
”答え”を確信する。


299 名前:(・へ・) 投稿日:2006/11/23(木) 23:44:38.55 id:tJnLi/7X0

クーはベッドから立ち上がり、
俺の目を見つめながら、

「君はどうしたいんだ?」

あの日、先送りにした問いを投げかけてきた。



―――死ぬのか?

―――それとも、生きるのか?


301 名前:(・へ・) 投稿日:2006/11/23(木) 23:47:03.29 id:tJnLi/7X0

「私は何も勧めない。
 生きるのも死ぬのも、君自身が選ばなければ意味がないんだ。
 死にたければ、自分に嘘のない納得のいく答えを自分自身に示せ。

 そして、死ね。」


306 名前:(・へ・) 投稿日:2006/11/23(木) 23:49:57.42 id:tJnLi/7X0

「君がそれを納得した上で踏み切れたのなら、
 例え、世界中の誰が認めなくても私は認める。」




―――――だから


「選び取るんだ。
 君が、自分の意志で。」



308 名前:(・へ・) 投稿日:2006/11/23(木) 23:52:14.02 id:tJnLi/7X0
-------------

覚悟はしていたつもりだったけれど、やはりいざそれを前にすると怖い。
あの日、ドクオ君が仕舞い込んだ”答え探し”は願わくば
二度と紐解かれなければいいとすら思った。

だけど、この疑問は一度目に付けば、忘れきるまで頭を離れないのだろう。



310 名前:(・へ・) 投稿日:2006/11/23(木) 23:53:42.30 id:tJnLi/7X0

如何ともし難い命題だ。

”生きる”

それは別に解き明かさなくても生きていけるどうでもいいもので、
大抵の人はその疑問から目を逸らして生きている。

だが、誰しもが当然のように甘受している出来事だけどその本質は実に深く果てしない。

そこに答えはないというが、私はこの答えを持っている。
自己中心的と言われるのかも知れないが、私という世界像の中で
たった一つの真実として存在しているのだ。
だから、私は揺れ動かずに居られた。
自分という物差しで推し量ればいいのだと分かっていたから。


313 名前:(・へ・) 投稿日:2006/11/23(木) 23:55:13.85 id:tJnLi/7X0

だけど、彼は違った。

それを持ち得なかったのだ。


315 名前:(・へ・) 投稿日:2006/11/23(木) 23:56:50.77 id:tJnLi/7X0

それでも………
時間はかかるとおもう。
だけどこのまま放っておけば忘れる事は出来たはずなのに、
敢えて紐解こうとしたのには彼なりに考えがあったからだろう。


私はその言葉を聴き収める義務がある。
だから、真っ向から君の見出した解を聴こう。


317 名前:(・へ・) 投稿日:2006/11/23(木) 23:57:28.77 id:tJnLi/7X0

ブーンとツンを礎に、君は君の答えを導き出したのであろう、

これからまだまだ続くであろう人生の道標を。
あるいは
続いていく事を拒む その理由を。


319 名前:(・へ・) 投稿日:2006/11/23(木) 23:58:50.18 id:tJnLi/7X0

ドクオ君は真っ直ぐ、目を逸らす事なく私を見ていた。

その瞳の奥にはブーンに似た鋭さがあった。
その浮かべた表情にツンに似た決意があった。


321 名前:(・へ・) 投稿日:2006/11/23(木) 23:59:21.39 id:tJnLi/7X0

「なぁ、クー。
 お前に甘えてから今まで俺なりに考えた事があるんだ。
 どうか、それを、聞いてくれ。」


323 名前:(・へ・) 投稿日:2006/11/24(金) 00:00:30.29 id:Qh8E0x6j0


私達の絆に悲しみが拡がったその”季節”。

ブーンは死に、ツンは居なくなった。
けれど、彼は確かに生きていた。



生きては、いた………



返信2006/11/25 18:33:22

31jigendaddyjigendaddy   ('A`)ドクオが生きるという事について考えるようです-30

361 名前:(・へ・) 投稿日:2006/11/24(金) 22:33:13.60 id:Qh8E0x6j0

他の誰かはそれに異を唱えるかも知れないが
それでも、俺はブーンとツンの決意を認めようと思う。
そして、
二人がその選択肢を選んだ事によって
今目の前に広がる世界に二人が居ない事も、
時には悲しくなる事も寂しくなる事もあると受け止めて、

その上で二人の選択を、俺は認めよう。


二人は確かに”生きていた”
それを証明する為に、俺は認めよう。



362 名前:(・へ・) 投稿日:2006/11/24(金) 22:33:59.25 id:Qh8E0x6j0




     ドクオが生きるという事について考えるようです





363 名前:(・へ・) 投稿日:2006/11/24(金) 22:35:41.10 id:Qh8E0x6j0



晴れた土曜日の午後。

季節の頃は冬。

天候は快晴。

絶好の引越し日和だ。


368 名前:(・へ・) 投稿日:2006/11/24(金) 22:38:59.84 id:Qh8E0x6j0

仕事が一段落した事と気持ちを切り替える為に
俺は今日引っ越しをした。
前に住んでいた家から中途半端に離れていて
今の会社からは程遠く、新たな職場を探すにも程遠い、
何をするにも、本当に中途半端だった。



だが、それで良かった。


369 名前:(・へ・) 投稿日:2006/11/24(金) 22:39:42.92 id:Qh8E0x6j0

ダンボールで埋め尽くされた部屋を背にベランダで大きく伸びをする。

さすが田舎。
空気は美味い。
空も広い。


370 名前:(・へ・) 投稿日:2006/11/24(金) 22:43:19.48 id:Qh8E0x6j0


「ドクオ君、この荷物はここに置いておけばいいのか?」

クーが小さなダンボールを重ねて、抱くようにして持ちながら俺に尋ねる。

「あぁ、頼む。
 そこいらに重ねて置いてくれ。」

おおまかな置き場所を指示してクーはその通りにダンボールを置く。
ふむ、と部屋を見渡して言った。

「これで、粗方運び終わったのか?」

「あぁ、これで全部だ。」

「一人暮らしとは言え、結構な荷物量だったな。」

「手伝ってもらって悪かったな。」

「気にするな。
 紙コップとインスタントコーヒーがあるんだ。
 コーヒーでも入れよう。
 座って待っていてくれ。」


372 名前:(・へ・) 投稿日:2006/11/24(金) 22:45:37.67 id:Qh8E0x6j0



ダンボールだらけの部屋、二人で向かい合って
クーが淹れたコーヒーを飲む。

相変わらず、クーのコーヒーは苦い。
だが、その苦さがまた格別だった。

「うまい。」

「それは良かった。」


374 名前:(・へ・) 投稿日:2006/11/24(金) 22:48:32.92 id:Qh8E0x6j0

煙草を箱から取り出す。

「吸ってもいいか?」

「ああ、構わないよ。」


煙草に火をつける。
銘柄はラッキーストライク。

クーはその”変化”に気が付いたらしい。

「ドクオ君、煙草の銘柄を買えたのか?」

不思議そうな顔で煙草の箱を指差す。

「あぁ、ちょっとな。
 ピースは止めた。」

「………そうか。」


理由は言わずとも察してくれたらしい。
それ以上追求される事はなかった。


376 名前:(・へ・) 投稿日:2006/11/24(金) 22:50:54.81 id:Qh8E0x6j0






「しかし、ドクオ君とは短い付き合いだったな。」

話の流れからクーを近くの駅まで送る事になり
一緒に部屋を出てドアに鍵をかけた所でクーが呟いた。


377 名前:(・へ・) 投稿日:2006/11/24(金) 22:51:37.93 id:Qh8E0x6j0

「はぁ?何言ってんだ?
 高校の頃からの付き合いのどこが短いって言うんだよ。」

「恋人同士としての付き合いだよ。
 ほんの数ヶ月ぐらいの付き合いだったじゃないか。」

「……あぁ、そういう意味か。」


クーの言った通り、俺達は別れる事にした。

理由はシンプルだ。
クーにはクーの目指したいものがあり、進みたい道があり
俺には俺の考えが出来て………
その道は違うものだから、それぞれの道を進む為に
俺達は別れる事にした。


380 名前:(・へ・) 投稿日:2006/11/24(金) 23:00:12.50 id:Qh8E0x6j0


曖昧な関係は終わった。
だけど、それは形を変えて確かな関係になったと俺は思う。

都合のいい話なのかも知れないが、
暫定である事を止めてようやくにして分かった。
クーは掛け替えのない大切な仲間だ、と。

そんな簡単な事をようやくにして気付けた。


383 名前:(・へ・) 投稿日:2006/11/24(金) 23:02:04.80 id:Qh8E0x6j0

今までは一口に仲間だと言っても、それはどこか浮ついていて
本当に困った時、窮した時には何の効果も持たない心が平穏を保てる時のみの、
限定的のものだと思っていた。

正直に言おう。
俺はその絆を心のどこかで疑っていた。


386 名前:(・へ・) 投稿日:2006/11/24(金) 23:05:17.69 id:Qh8E0x6j0

だけど、俺が本当に困った時、道を失った時、
何もかもが分からなくなった時…
いつでもクーは俺を気に掛けてくれていた。

クーが俺に対して恋心を持ってくれていたのかどうかは分からない。
でも、少なからず心配して、俺が潰れないようにと暫定的な道を考えて
それを指し示してくれた。


388 名前:(・へ・) 投稿日:2006/11/24(金) 23:07:52.39 id:Qh8E0x6j0


だから、これから先、もしもクーが困った時、
俺はクーがしてくれたように俺の意志で、俺の出来る事を考えて
クーを助けてやりたいと思う。

曖昧な間柄の人間としてではなく、大切な仲間として力を貸す事が出来れば、と
そう思う。


391 名前:(・へ・) 投稿日:2006/11/24(金) 23:10:22.77 id:Qh8E0x6j0

田園風景を二人、並んで歩く。

新しい部屋から駅までは歩いてすぐの所だったが
最寄り駅ではなく一つ向こうの駅へ向かって歩いていた。

………もう、しばらく会えなくなるから。

お互いに申し合わせたわけでもなく、俺達の足はごくごく自然に
一つ向こうの駅に向かっていた。



「いつ、日本を発つんだ?」

並んで歩くクーに問いかける。


394 名前:(・へ・) 投稿日:2006/11/24(金) 23:12:27.08 id:Qh8E0x6j0

「あぁ、来年の頭を予定している。」

俺が自分なりの答えをクーに示した後、
クーは兼ねてより自分のやりたい事を成し遂げるために
海外へ行く事を考えていたと俺に教えてくれた。

その告白から程なくして、正式に渡米を決意した。


397 名前:(・へ・) 投稿日:2006/11/24(金) 23:14:40.37 id:Qh8E0x6j0

「しばらく会えなくなるな。」

少し暗い声でクーは呟く。

「でも、また会えるさ。
 俺達は生きてるからな。
 それに、それはお前の夢なんだろ?
 だったらそんな顔せずに、胸を張ってなくちゃあな。」

「ドクオ君に言われるとはな。
 心外だ。」

クーが少し驚いたような笑ったような…
そんな表情を漏らす。


399 名前:(・へ・) 投稿日:2006/11/24(金) 23:20:10.60 id:Qh8E0x6j0

確かにそうだよな。

胸を張って生きていなかった俺が言う言葉じゃないよな。


でも、今は違う。


401 名前:(・へ・) 投稿日:2006/11/24(金) 23:23:37.83 id:Qh8E0x6j0

辺り一面の田園風景。
雲一つない空。
そんな辺鄙で駅員すらもいない駅で俺とクーは電車を待っていた。

ちょうどいい具合に俺達が駅に着いた数分後が電車の到着時刻になっていて
電車が来る方向に目を凝らすと豆粒くらいの大きさの電車が見えた。


403 名前:(・へ・) 投稿日:2006/11/24(金) 23:26:53.91 id:Qh8E0x6j0

「なぁ、クー。」

「なんだ?」

「最後に握手しようぜ。」

「ふふ、本の読みすぎじゃないか?
 そんな恥かしい事、今時流行らないぞ。」

「いいんだよ。
 流行りも廃りも関係ない。
 俺はお前と握手したい。」

手を差し出す。

やれやれ、とクーは呆れたような顔をしていたけれど
すぐに手を差し出して、俺達の手が結ばれた。


ぎゅっ、とクーの手を強く握る。
クーも強く手を握り返してくれた。

「それじゃあ、どうか元気で。」

ゆっくりと手を離してクーは電車に乗り込んだ。


406 名前:(・へ・) 投稿日:2006/11/24(金) 23:32:07.14 id:Qh8E0x6j0

電車のベルが駅に響く。


――――ベルがその音を止めてしまう前に、もう一つだけ。

「クー!」

叫びに似た俺の声にクーは不思議そうな表情を返す。
俺はそんなクーの目をまっすぐに見据えて言った。




「約束だ。絶対に、また逢おう!」


407 名前:(・へ・) 投稿日:2006/11/24(金) 23:32:50.76 id:Qh8E0x6j0

恥ずかしいそんな言葉にクーは笑顔で答えてくれた。



「必ず、逢おう!!」


返信2006/11/25 18:35:44

32jigendaddyjigendaddy   ('A`)ドクオが生きるという事について考えるようです-31

409 名前:(・へ・) 投稿日:2006/11/24(金) 23:36:44.89 id:Qh8E0x6j0

電車が行き、俺は一人、中途半端な場所にある駅に残された。
見渡す限りに広がる田んぼと畑に囲まれ
高い建物が殆どない空がやけに広いこの場所で
俺は立ち尽くして
じっと、自分の手を見つめた。


俺の手にはたくさんのものがあった。


いつの日か出し損ねてそのままだった転職用の履歴書という”希望”。
愛すべき職場とそこに身を寄せる人々との繋がりと”居場所”。
ブーンが証明してくれたどん底からの復活という”可能性”。
ツンの生きて欲しいという願いが込められた”想念”。
そして、ついさっき、クーと交わした”約束”。


どれもこれも、俺が中途半端だった為に手に入れられた
掛け替えのない大切なものだ。


411 名前:(・へ・) 投稿日:2006/11/24(金) 23:38:37.45 id:Qh8E0x6j0

これからもこの中途半端さに悩まされて生きていくのだろうが
それを受け止めて、折り合いをつけて生きていこう。
この”中途半端”は俺の切って切り離せない要素なんだ。


何も悪い事だけじゃない。
中途半端であったが故に俺は死に切れず、ここにいる。
生きている。

これから存命の内に生きていて良かったと一度でも思えれば
今際の際にでも、きっとその個性に感謝できるだろう。


415 名前:(・へ・) 投稿日:2006/11/24(金) 23:41:31.43 id:Qh8E0x6j0

欲張りな俺は、
ブーンのような孤高を貫けた強さに憧れたりもしたし、
ツンのような柔らかな笑顔に憧れたりもしたし、
クーのような凛とした格好良さに憧れたりもした。

それでも、違うからこそ、
みんなに憧れたこんな俺だったからこそ
俺達は分かり合えて、心を重ねあわせられたんだ。


こんなのでも、愛すべき俺という人間の個性なんだ。


420 名前:(・へ・) 投稿日:2006/11/24(金) 23:46:45.69 id:Qh8E0x6j0


俺は自分を受け入れよう。
そして、多くの人々の内にある”自分”という物差しと
選択によって成り立つこのせかいで、俺も自分で選ぼう。

目の前に広がる無限の選択肢と無限の可能性を。


422 名前:(・へ・) 投稿日:2006/11/24(金) 23:47:42.93 id:Qh8E0x6j0



―――だから

―――――とにかく

――――――――生きていこう。


423 名前:(・へ・) 投稿日:2006/11/24(金) 23:49:29.97 id:Qh8E0x6j0


改めて、決意した。


すると二度と見る事はないと信じて疑わなかった”光”が世界を覆った。

ほんの一瞬、まばたきをする前に消えるほどの間の事だったが
それは確かにツンを抱きしめた時に見えた美しいせかいだった。


426 名前:(・へ・) 投稿日:2006/11/24(金) 23:51:49.47 id:Qh8E0x6j0

駆り立てるのは抑えきれない希望、
よぎるのは”自分”を貫けるかという不安。



――――それでも、歩き出す。




前途には何色か分からない道(みらい)が確かにあった。


428 名前:(・へ・) 投稿日:2006/11/24(金) 23:52:28.52 id:Qh8E0x6j0





踏み出した足は それを 確かに感じた。




429 名前:(・へ・) 投稿日:2006/11/24(金) 23:53:08.82 id:Qh8E0x6j0





―ドクオが生きるという事について考えるようです・完―





返信2006/11/25 18:37:17

33jigendaddyjigendaddy   ('A`)ドクオが生きるという事について考えるようです-32

431 名前:(・へ・) 投稿日:2006/11/24(金) 23:55:04.96 id:Qh8E0x6j0

ヾ ヾ;ゞiii;;::: |/; "┌───┐`    `       `     ┌───┐ゞ; ヽiii;;::: |/;ヾ;ゞ "ヾ
───────┤┌─┐|  `       `    `   |┌─┐├────────
              ||入||     ` ,      `      ||神||
              ||  ||                   ||山||
              ||学||                  ||高||
              ||  ||           (・へ・)   .||校||
              ||式||           (|у-|)  || ||
              |└─┘|             | T |~ |└─┘|
───────┴───┘            ∪∪   └───┴────────
                  (^ω^ )
                    つ                ∧_∧
             . ( 'A`)  |  |           _。__  " ,  、 ミ
              |つ |つ ∪∪          /___i_  〉∀  く
              |  |               ξ(*゚ ⊿) /    ヽ
              ∪∪                (〕圖〔)ι'i   i∪

433 名前:(・へ・) 投稿日:2006/11/24(金) 23:55:31.25 id:Qh8E0x6j0

:::::::::::::::::::::::::::::::: : :: :: : ::: : :              ヽ   i
::::::::::::::::::::::: : : : ::                ヽ 
:::::::::::::::::: : : :              \ ヽ  
:::::: ::: : : :                     
::::: : : :: :             \     ξ(*゚⊿゚)ξ
: : : : :  .( ・へ・`)           ( 'A`)   )川゚ _゚)
___ l⌒i⌒⊂)___     ヽ   (     ) |   | ∩
    / ⌒'⌒    /       \ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄\ ̄ ̄
__/_____/||         ||\_____\_
_|||_____||/||        ||\||_____|||_
  |||   し し   .||  ||        ||  ||          |||

           懐かしく感じてる
434 名前:(・へ・) 投稿日:2006/11/24(金) 23:56:04.13 id:Qh8E0x6j0

ξ(*゚⊿゚)ξ    (,, ' A)
   | つ田   ⊂  l)
     l       | . |
   し`J      し'ヽ,)

あの時と変わらない
437 名前:(・へ・) 投稿日:2006/11/24(金) 23:57:33.87 id:Qh8E0x6j0

      (  ,,')
      /  づ]],,
     (,,_ノ

          澄んだ瞳のままで


440 名前:(・へ・) 投稿日:2006/11/25(土) 00:00:34.96 id:t8dg6owD0

     ⊂゚⊃       ( ^ω^ /゙)
                と   <
  ☆ (,,' A)っ/)      〉 iヽ_⌒)
   ヽ と,,__,,つ     (_) 

毎日通った道

441 名前:(・へ・) 投稿日:2006/11/25(土) 00:01:30.81 id:t8dg6owD0

       ξ(*゚⊿゚)ξ    (^ω^ )
   川 ゚ _゚)   。'。Уハ   _ノヽУl_」 ヽ   
  ノ__コo=※ 。ニ| ゚ヽ'*' ゚̄ ̄〈_゚〈 〈  (A`  )
  ヽ__》 ゜ 。 ゜。U ´,* *、`  (_(__),⊂,‐‐ι~)
  (_)_)  ゜ ゚                ´'゚ヾ (_(__)ヽl

       うつりゆく景色の中で
442 名前:(・へ・) 投稿日:2006/11/25(土) 00:02:48.91 id:t8dg6owD0

       ♪~♪♪
  川 ゚ _゚ )     ♪          
 ( つ「 ̄ ̄]       (__' A`) ∇
 ( 「 ̄   |       (  <y> ]つ 
 . |__iiiiiiiiiiiii        |__|_|
               (__)_)
             ~~~~~~~~~~~~~~~

僕たちの希望とともに
444 名前:(・へ・) 投稿日:2006/11/25(土) 00:04:11.44 id:t8dg6owD0

    ☆
      人
    ノ::oゝ             +.
   ノ;;;; ゝ           + cγ ~''~~⌒'ゝ、 ,.*.
   ノ(,,'A`)    Merry Xmas .γ''○ 。☆。:;,&ゝ
  .ノ(ノ; ◎;つ           ( ゜。((゚- ゚)川) ;:*:ゝ
  ノ..&, ,......ゝ          入○[>O<] 。,ソ .,
   ヘニニニニ7            *'ゝ、<人>.,ノ' .+
    ∪~∪                   '∪∪
          ξ(*゚⊿゚)ξっΨ Ψc(^ω^ ) . ・  .o


            変わるよこれから通る道
445 名前:(・へ・) 投稿日:2006/11/25(土) 00:05:25.10 id:t8dg6owD0

┏────────┓ ..::::::::::|  ||  ./
│卒業おめでとう!│. ...:::::::|  ||/     ||
┗────────┛. . . .:::|  ||       ||  |  .
    (◎)         . ..:::|  ||/     ||  .! :   :
    ヽ|ノ          . .::|  ||       ||   | :   :
__(__)_________|  ||       ||  | :   :
                \|  ||    / ||  ,i :    :
 ̄|| ̄ ̄|| ̄ ̄|| ̄ ̄|| ̄ ̄||.  \. // ,|i〕  | :    :
==||====||=〔 ̄ ̄ ̄〕||====||    \.    ||  ,| ::   ::
\||__\ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄\,||.      \  ||  i ::   :::
  \  ||\______\        \,||  | :::   .:::
 ̄||.   ||\||   :=:   || ̄        \ | :::   ::::
 ̄||:   ||  || ̄ ̄ ̄ ̄ ̄|| \         ノ .::::   :::::
  ||      ||          ||..  \         ゙^ヽ,  .:::::::
           〔 ̄ ̄ ̄〕.    \         `~、
 ̄ ̄\    \ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄\.. \
     \.    ||\______\ . \
 ̄ ̄ ̄||~     ||\||   :=:   || ̄.   \
 ̄ ̄ ̄||    ||  || ̄ ̄ ̄ ̄ ̄||        \
      ||.       ||          ||

君といたこの場所もいつか

446 名前:(・へ・) 投稿日:2006/11/25(土) 00:06:48.47 id:t8dg6owD0


◎◎◎◎◎◎◎◎◎◎◎◎◎◎◎
◎┌───────────┐◎
◎│神山 高校 卒 業 式  │◎
◎└───────────┘◎
◎◎◎◎◎◎◎◎◎◎◎◎◎◎◎
               
          (・∀・ )
    ∧_∧    ⊂   ⊂) 旦
   (    ) | ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄|
   (    )つ ̄| ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄| ̄
    |  |  |   .| 神山高校.  |
__(_(_ )_   |          |
   /===/  ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄
   /===/
 ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄

             思い出に変わる

 
448 名前:(・へ・) 投稿日:2006/11/25(土) 00:07:55.58 id:t8dg6owD0

       ,:'ノ 
      ξ*゚⊿゚)ξ
     ム(つ∠淼
     ,:'"  ノハ
   .,,;;'___,,,,ノノハ

永遠に時は進むけど

452 名前:(・へ・) 投稿日:2006/11/25(土) 00:10:04.58 id:t8dg6owD0

       @   @
   .(,, ^ω^) ξ(*゚ー゚)ξ
   | <∞>  @@*@@
   |U..V |⊃⊂  ⊃
  .@| : | /∞  ∞\
   ..U..U ~~~~~~

いままでにありがとう

454 名前:(・へ・) 投稿日:2006/11/25(土) 00:11:09.22 id:t8dg6owD0

          ,, --──-- 、._
      ,.-''"´           \
    /                ヽ、
   /     /\     /\     ヽ
    l   , , ,                     l
   .|        (_人__丿  """     |
   l                      l
   ` 、  /⌒⌒i   /⌒ヽ        /
     `/    |   |    \    /

君のこと
455 名前:(・へ・) 投稿日:2006/11/25(土) 00:12:27.30 id:t8dg6owD0

.,.,.,,;:::|;l;::l|;;::::::;;;ノ ヽ ;;::::::;;;;:ゞ;;;::::: ;;::;;; /;; ゞ ;;; ::|;ll;:lソ;;:;;;ヾ;:::|;l;::l|;;:::::;;ノゞヾ: : : : : : ゞ;;;ソ.,.,.,,;:::|;l;::l|;;::::::;
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     忘れないからね

464 名前:(・へ・) 投稿日:2006/11/25(土) 00:25:29.72 id:t8dg6owD0

    _  ∩
  ( ゚∀゚)彡  ( 'A`)
  (  ⊂彡  /  づ,
   |   |  |   | 
   し ⌒J  し ⌒J

思い出とともに

466 名前:(・へ・) 投稿日:2006/11/25(土) 00:28:48.93 id:t8dg6owD0

川 ゚ー゚) 
と   l,)
ノーJ_

        進む時間は変わるけれど

468 名前:(・へ・) 投稿日:2006/11/25(土) 00:30:47.35 id:t8dg6owD0

  +     ゚  . +            . . .゚ .゚。゚ 。 ,゚.。゚. ゚.。 .。
   . .   ゚  . o    ゚  。  .  , . .o 。 * .゚ + 。☆ ゚。。.  .
               。       。  *。, + 。. o ゚, 。*, o 。.
  ゚  o   .  。   .  .   ,  . , o 。゚. ,゚ 。 + 。 。,゚.。
 ゚ ,   , 。 .   +ξ(*゚ー゚)ξ  。  。゚ . ゚。, ☆ * 。゚. o.゚  。 . 。
。 .  .。    o   .. 。 ゚(^ω^ ) 。. o 。* 。 . o. 。 . .
        。   .   。  . .゚o 。 *. 。 .. ☆ . +. .  .
 。 .  . .   .   .  。 ゚。, ☆ ゚. + 。 ゚ ,。 . 。  , .。
    ゚  。   ゚  .  +。 ゚ * 。. , 。゚ +. 。*。 ゚.   . . .  .
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ぼくたちは生きていく

471 名前:(・へ・) 投稿日:2006/11/25(土) 00:33:06.31 id:t8dg6owD0

きみのこと わすれないからね

おもいでと ともに すすむじかんは かわるけれど

それぞれのみちを あゆんでいこう
そして いつか きみのところへいくからね






ありがとう


474 名前:(・へ・) 投稿日:2006/11/25(土) 00:35:58.24 id:t8dg6owD0

これにて物語は完結です。
ここまでお付き合いくださった皆様、
本当にありがとうございました。

(・へ・)先生の次回作にご期待ください。

返信2006/11/26 20:58:07

34: このエントリーは削除されました

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返信2008/11/27 15:21:15