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9jigendaddyjigendaddy   9.耐えない

214 名前:名も無きAAのようです:2013/02/06(水) 22:51:31 id:uGcmYyVQ0
9.耐えない

( ^ω^)「……」

(゚、゚トソン「……」

場所は、喫茶店『浪漫S区』、時刻は午後二時半。
私と内藤氏は、もう二十分以上も口を利いていない。
彼は私が持ってきた自作品をじっと読み耽っている。

傍から見れば中堅の編集者と新米の小説家には見えない……だろうか。
いずれにしても奇妙で滑稽な光景だと思う。何だか、一人前を演じているみたいだ。
私はただ趣味で物を書いているだけの存在であり、内藤氏もまた、一介の読者でしかないというのに。

それにしても、私の小説はそんなに長いものだったろうか?

( ^ω^)「……ん」

ようやく彼は原稿から目を離し、それを傍らに置いた。
そして相変わらず震える右手でコーヒーを啜り込む。

( ^ω^)「……どうも、申し訳ない。
      集中して小説を読んだりするのが難しいものですから……」

215 名前:名も無きAAのようです:2013/02/06(水) 22:52:18 id:uGcmYyVQ0
(゚、゚トソン「その事は……ハインから聞かされていました。
      こちらこそ、申し訳ないです。わざわざ、時間を取らせてしまって……」

( ^ω^)「いや……そもそも僕が望んだことだし……。
      読めてよかったですよ。貴方という人間をよりよく理解できたような気もするし……」

ここまでの彼の台詞を聞いた限り、どうも今回の彼の『イメトレ』は、
半端な具合で成功してしまったようだ。敬語が外れる場合もあれば、
そうでない場合もある。それが半々の割合でまぜこぜになっているものだから、違和感が大きい。

( ^ω^)「久々に小説に触れると……自分の想像力を発揮しないといけないから、大変ですね。
      能動的に読まないといけない。受動的に読んでいると、いつの間にか言葉が通り過ぎる」

(゚、゚トソン「……そういうものですか」

( ^ω^)「うん……」

(゚、゚トソン「それ、で、えっと」

(゚、゚トソン「どうでしたか、私の、小説……」

高校や大学の小説を主とする部活動では、大抵部員の作品を批評する場が設けられるのだが、
私はそのたびに、どうしても緊張する。常に最悪の可能性を想定し、それよりはマシな言葉を得て、
ほっと一息つくような感じだ。デレがよく単位への危機感を口にするのと似ているかもしれない。

216 名前:名も無きAAのようです:2013/02/06(水) 22:53:43 id:uGcmYyVQ0
( ^ω^)「面白かったですよ」

彼は相も変わらず少しも表情を動かさずに、そう言った。

( ^ω^)「文章は読みやすかったし……すんなりと呑み込めました。
      内容はまあ、ありがちと言えばありがちだけど、
      ありがちなものを丁寧に書ききるのって難しいと思うから……」

言葉をそのまま鵜呑みにするのもどうかとは思うが、彼の好感は単純に嬉しかった。
しかしどうだろう。彼の言葉には裏があるように見え、またその裏側を隠そうともしていないようだ。

(゚、゚トソン「……何か、悪いところでもありましたか」

感謝でもなく、謙遜でもなく、最初にそのような言葉が出てきてしまうのはやはり、
自虐的な性分のせいなのだろうか。それとも、彼の態度から受け取るべき当然の反応なのか。
案の定内藤氏はやや唇を噛んで、少し黙ってから言いづらそうに口を開いた。

( ^ω^)「うーん……いや、本当に丁寧な文章だと思うんです。が」

( ^ω^)「……都村さん、音楽を聴きますか?」

(゚、゚トソン「え……音楽……ですか。はい、まあ、それなりには」

( ^ω^)「僕もよく聴くんです……たまに、その歌詞が自分を代弁してくれてるんじゃないかと思うほどに、ね。
      で、そういう音楽を聴いてますと……何と言うか、たまに、言葉が多すぎると思うんですよ。
      必死に伝えようとしてるけど、全部を伝え切れてはいないような感じが……するんですね」

( ^ω^)「まるで、言いたいことを言うための言葉が見当たらないかのような……。
      いや、そりゃメッセージだけが音楽の良さではないですけどね。
      でもメッセージソングなのにメッセージが埋もれている……遠回りしすぎている恋文……」

( ^ω^)「都村さんの小説は、そんな感じに見えるんです」

218 名前:名も無きAAのようです:2013/02/06(水) 22:55:03 id:uGcmYyVQ0
(゚、゚トソン「……」

彼の言葉が、よく理解できなかった。
私の小説を何らかの方法で批判しているのだけは分かる。
しかしその方法が分からなければ、改善はおろか納得すらも出来ないだろう。

( ^ω^)「都村さん、不躾な質問にはなると思うけど……」

( ^ω^)「もしかして、自分の書く文章に自信が無かったり、しませんか」

私は俄に停止した。彼が先ほど言った台詞が蘇る。
受動的に聴いていると、言葉は即座に脳裏を過ぎ去るのだ。
それを呼び戻すのに時間がかかった。いや、そもそも呼び戻す気があったのだろうか。

彼の言葉は、私の核心に触れていたのでは無いか。
いや、触れるどころか鷲掴みにしたせいで、私は向き合えなかったのではないか。

(゚、゚トソン「……つまり、私は、必死に言い訳しているのでしょうか」

( ^ω^)「前も言ったけど僕は批評家じゃないから、的確なアドバイスができるわけじゃない。
      ただ僕が、ほんの少し貴方の文章を読んで感じたのは、そういう、弱気さだったんです」

弱気さ。反芻し続けても上手く飲み込めない言葉。
私の根底に常に流れ続けている、最早人格とも呼べる、性質。

(゚、゚トソン「それが、私の、本質なのでしょうか」

( ^ω^)「……さあ。それは、僕より知っている人がいるんじゃないかと、思います」

219 名前:名も無きAAのようです:2013/02/06(水) 22:56:00 id:uGcmYyVQ0
何度だって私は了解しなければならない。
私はまだ内藤氏と出会って間もない人間であり、故に互いが互いを理解するには無理がある。
だから彼の言葉を傾聴するのは結構だが、深みに嵌るべきではないのだ。

しかし、それならば私は彼よりも長く付き合っている人物について把握していると言えるのか。
ハインのことを、デレのことを、理解していると言えるのだろうか。

いや、それは思考方法として間違っている。間違っているはずだ。
しかし私には何が間違っているのか具体的に自分に教えることが出来ない。
そもそも内藤氏と私がある意味で非常に相性が良いのはハインの言からしても証明されている。

それでは、私は彼の言葉を受け入れるべきだろうか。
私の弱気さや、自信のなさが文章にそのまま表れているという批評を、承認すべきだろうか。

彼に手渡した作品は私の自信作であることには間違いない。
たとえそれが大学の小さな部活動のためだけに書かれたものだとしても、
私は殆ど手を抜いたつもりもなければ、少なくとも自分で面白いと保証できるものに仕上げたつもりだ。

そして、私が書いているのは、『純文学』だ。

そこには一定以上に『自分自身』が含まれている。
私はそれを否定しないし、大まかにいってそれがフィクションに分類されるのだとして、
ノンフィクションの度合いが低いとは思わない。純然たる私小説ではないが、私小説的ではある。

もしも私が、誰よりも自作品の理解者であるとするならば、内藤氏の批評に太鼓判を押さねばなるまい。
彼の言葉が脳味噌に叩き込まれ、それが衝動となって私を茫然とさせたのならば、
どうしたって私はその言葉を認めざるを得ないのだ。否定したところで、惨めになるだけだろう。

むしろ、堂々と証言されてありがたいぐらいだ。瞼の裏に目を背けていた問題を塗りたくられたような、感じ。

220 名前:名も無きAAのようです:2013/02/06(水) 22:57:11 id:uGcmYyVQ0
( ^ω^)「……都村さん」

(゚、゚トソン「はい」

( ^ω^)「お気に障ったようでしたら謝ります。
      僕も、少し読んだだけで全部を分かったようになるのは嫌いですから……」

彼の謝罪したということは、私が随分と長く黙していたということだ。
こんなにも自分の小説について考えるのは久しぶりだった。最近、就職活動を名目に、
小説どころか部活動自体からも離れていたことが大きな理由である。

ただ、部活動に勤しんでいたとしても彼の台詞のような批評が聴ける機会は少ないだろう。
所詮は学内の小さな世界だ。そこには商業的視点も、芸術的視点も介入しない。

互いを、漫然と褒め合うだけだ。真剣な批判をぶつけたところでさしたるメリットは無い。
むしろ、時々現れる、『しっかりと意見を言える人』が神様のように崇め奉られるような始末だ。
文化系の部活などそのようなものだろう。特に、小説には吹奏楽のような客観的な規則性が存在しない。

私自身も、今日までそのようにして『創作仲間』とでも呼べる人々と生き凌いできた。
彼らの漫然とした褒め言葉に充足し、そして自分も同じような台詞を並べることにしていた。
それで十分だったからだ。何一つ不自由しない、矮小なアイデンティティーはそれだけで保たれていた。

(゚、゚トソン「……私、やっぱり」

(゚、゚トソン「小説が、すごく、私の中を、占めているのかも知れません」

内藤氏の些少な言葉でたちまち背後から襲ってきた創作への矜持。
いや、矜持と呼ぶにはあまりにも狭小な、ただの稚拙な感情。

221 名前:名も無きAAのようです:2013/02/06(水) 22:58:19 id:uGcmYyVQ0
( ^ω^)「……僕が昔、小説を書いていた時のことだけど」

泡沫のような言葉しか述べられなくなった私に代わって、内藤氏が時間を埋める。

( ^ω^)「やっぱりそっち方面の才能は無かったみたいだから、まるで手応えがなくて。
      小説って、そもそも読まれること自体難しいじゃ無いですか。それこそサークルとかでないと。
      僕の表現、みたいなものは、誰にも感じ取られないまま、消えるしか無かったんです」

( ^ω^)「僕は割と馬鹿な人間だから、それを誰も僕を理解出来ないんだと勘違いして。
      違うんですよ、理解出来ないじゃなく、理解しようとされないだけなんです。
      これは今でもまだ痛感する。結局、僕らが持てる表現はその程度なんだって」

( ^ω^)「……その点、都村さんの小説は、私が読んだ限りではまだ読者に理解されたがっています。
      そのために読みやすくもしてあるし、展開にも配慮がなされているのではないかと。
      面倒な過程だと思うんです。それをきっちり踏めるのは、素晴らしいんじゃないかな」

……私は、書きたいことを書きたいように書いているつもりだ。
誰かに配慮をそいたつもりはない。もしそう感じ取られるのならば、それは結果でしかないだろう。

(゚、゚トソン「……それは、たぶん、偶然みたいなものですよ」

( ^ω^)「才能なんて、偶然みたいなものだと思います」

(゚、゚トソン「じゃあ、内藤さんは」

(゚、゚トソン「私に、小説を書く才能が、あると、思いますか」

222 名前:名も無きAAのようです:2013/02/06(水) 22:59:38 id:uGcmYyVQ0
( ^ω^)「……無い、と思います」

少し間を置いてから内藤氏は、そうハッキリと断言した。

( ^ω^)「もっとも、これは都村さんの一年前の作品ですから、
      今貴方が書いたら違うものが出来上がるかも知れません。
      才能なんて、いつ開花するものやら分かりませんからね……」

(゚、゚トソン「それでも、内藤さんは御自分の才能に見切りをつけたのでしょう?」

( ^ω^)「……」

内藤氏は珍しく、黙るべくして黙り込んだ。何かに迷っているような具合。
ただ、表情や姿勢は変わらなかった。彼は何一つ、動じることが無いのだろうか。
それとも、この程度は動ずるに値しないのか。彼の精神は曖昧ながら頑健なのだろうか。

( ^ω^)「その話をし始めると、長くなるのですが……要約しますと」

( ^ω^)「僕は、それほど『小説』という方法そのものに拘っていたわけではないんですよ。
      ただ表現が出来れば何でもよかった。そして、それを成功させるに『小説』では足りないと思った。
      だから『小説』を手段から外したんです。その後、例えば僕はYoutubeなどを利用した……」

(゚、゚トソン「足りない、というのは?」

( ^ω^)「前も言ったけど、まどろっこしいんですよ。小説は。
      相手に読ませて、想像させて、その上で言いたいことを呑み込ませないといけない。
      馬鹿みたいじゃないですか。それに今の時代じゃ、需要と供給が大きく食い違っている……」

( ^ω^)「まあ結局、僕が僕である以上、方法が何であれ、変わらなかったんですがね……」

223 名前:名も無きAAのようです:2013/02/06(水) 23:00:51 id:uGcmYyVQ0
才能が無い、と宣告されたところで特段の衝撃は無い。
むしろ逆に「ある」と言われていれば驚愕していただろう。目の前の人物に失望さえしていたかもしれない。

自信がある、といったところで、例えばプロの作家とは程度が違うのは誰よりも自分がよく知っているし、
ましてや才能の種子ですらも無いと思っている。せいぜい自分が満足出来るレベルのものであり、
周りにいる箱庭の住人を満足させられるレベルでしかないのだ。内藤氏は箱庭の住人ではない。

しかし、ほんの少し疑問が生じた。

(゚、゚トソン「内藤さんは、前回……」

(゚、゚トソ「私に、小説家になる、という道がある、と仰いましたね」

( ^ω^)「……うん」

(゚、゚トソン「しかし、今の貴方の口ぶりは、小説そのものを否定しているように聞こえたのですが」

( ^ω^)「……うーん」

内藤氏は頬に手を当てて、コツコツと指で頬骨を叩いた。

(゚、゚トソン「内藤さんは、私に、自分が見切りをつけた……あまつさえ否定に走る道を、勧めたのですか?」

224 名前:名も無きAAのようです:2013/02/06(水) 23:02:06 id:uGcmYyVQ0
私は彼に何を求めているのだろう。ふと、そんな問いが湧く。
真意だろうか、誠意だろうか。それを向けられたところで、私は積極的に応えようとはするまい。
それでもなお、彼の言葉の矛盾を突き詰めようとするのは、私が小説を肯定するからだろうか。

私は、ムキになっているのだろうか。

( ^ω^)「三つほど、言いたいことがあります」

やがて考えをまとめたらしい内藤氏は、私を諭すような口調で言った。

( ^ω^)「最初に……僕は誰にとっても小説が無意味であるとは思いません。
      現実問題として多くの小説が書店に並び、多くの人が手に取るのですから。
      それを否定しても仕方がない……無論、そういった小説を紡ぐ人を否定しても……」

(゚、゚トソン「……」

( ^ω^)「それから、都村さんの小説に対するひたむきさ……みたいなものはよく伝わりました。
      やはり僕には、都村さんが小説を書き続ける道を選ぶのが最良であると思えます。
      貴方は、貴方が思っている以上に小説に、執念を燃やしているんじゃないでしょうか」

(゚、゚トソン「それは……」

何か反論の言葉を見出そうとする私を尻目に、彼は『三つ目』を放った。

( ^ω^)「最後に……これは直接、小説には関係ないのですが……。
      都村さん、僕以外に……例えば、ハインさんや、そういった友人にも敬語だったりしませんか?」

225 名前:名も無きAAのようです:2013/02/06(水) 23:03:34 id:uGcmYyVQ0
(゚、゚トソン「え……」

突然冷や水を浴びせられたような気分だった。
それはまるで想像もしていなかった方向から射られた指摘であり、
そのうえ図星を突いているのだ。私は思わず硬直し、開いた口を塞ぐのも忘れていた。

( ^ω^)「貴方の敬語は非常に自然です。不自然なほどに、自然なんです。
      学生である貴方がそうそう敬語を使う場面があるとは思えません。
      しかし貴方は……馴れているんです。それが、まるで……」

( ^ω^)「……」

内藤氏はふと口を噤んだ。言ってはいけないことを思わず声に出してしまいそうになった感じ。
最早下手な芝居のような沈黙だった。変わらない表情の奥で何かが蠢いているように見えた。
それが私の――怒気を孕んだ攻撃心に火をつけた、らしかった。

(゚、゚トソン「……まるで、何だと言うのですか?」

( ^ω^)「……」

(゚、゚トソン「内藤さん」

後悔には幾つか種類があるだろう。問い質すべき事を問い質さなかったことによる後悔。
問い質してしまったことによる後悔。詰問に答えを吐くことによる後悔。吐かないことによる後悔。
そして内藤氏の後悔はさしずめ――後悔を予期していた後悔、なのではないか。

( ^ω^)「……まるで、僕のようだ、と」

226 名前:名も無きAAのようです:2013/02/06(水) 23:04:39 id:uGcmYyVQ0
( ^ω^)「都村さんが前回、僕に敬語をやめるように言いましたよね。
      でもその約束を、今回僕は殆ど守れていないような気がするんです……ね。
      それと言うのも、僕も貴方のように……元々敬語で話す人間だったからなんですよ」

(゚、゚トソン「語尾は……簡単に、取れたじゃないですか」

( ^ω^)「……都村さん。
      例えばの話ですけど、小学校の時分、クラスに『お』を語尾にする人がいたら、どう思いますか?」

( ^ω^)「僕は、確実にいじめ抜かれると思うんです」

(゚、゚トソン「……話が見えません」

( ^ω^)「何かのアニメや漫画の影響でそんな語尾に憧れたのだとしても、人はいずれ改善します。
      小学校でいじめられるか、中学校で自覚するか、高校ともなれば……自明でしょう。
      そういう、あからさまな、個性っぽいものなんて、人生において生き残るわけがないんです」

( ^ω^)「それが、演技でもない限りは」

(゚、゚トソン「演技?」

( ^ω^)「僕はYoutubeの動画投稿において様々な工夫を凝らしました。
      まあ昔の僕なら表現方法の模索とでも言っていたでしょうが……所詮愚策を弄したに過ぎません。
      あの語尾は……初期に思いついたもので、いつの間にか染み付いていたんですよ」

( ^ω^)「大の大人が『お』なんて……滑稽でしょう? そういうユーモアの『手法』だったんです。
      それ以外の何者でもありません。大人が後付けした語尾なんて、簡単に取り外しできます」

227 名前:名も無きAAのようです:2013/02/06(水) 23:06:13 id:uGcmYyVQ0
( ^ω^)「でも敬語は違う……僕は昔から敬語で話していました。
      逆に言えば、敬語以外で他人と会話する方法がよく分からないんです」

(゚、゚トソン「……動画では、普通の口調でしたけど」

( ^ω^)「あれは、結局のところ独り言ですから……」

ぐちゃぐちゃする。
内藤氏の台詞が、全て虚言であるように思えてきた。その方が、私が楽なのだ。
実際、相手の言葉から真実を汲み取ることにかける労力は尋常なものではない。

しかし、ここで内藤氏が告白した事実は、彼が口にした唯一の真実であるように感じられた。
だからといって彼は私に何を言いたいのか。私はどのような反応をするべきなのか。
全てを含めて、まぜこぜにして、頭の中がぐちゃぐちゃになる。文字がほつれて糸と化し、絡み合う。

(゚、゚トソン「……それで、結局何が言いたいんですか」

絡み合った思考を丸めて握り潰した末に私が向けたのは逆上にも近い敵意だった。

(゚、゚トソン「私が、内藤さんに似ているとして、だから、何だというのですか」

( ^ω^)「……僕は、真意として、貴方には僕のようになって欲しくないと思うんですよ。
      貴方が小説を書き続けるならその方がいいと思うんです。
      決して、僕みたいに拗らせるべきじゃない。創作意欲や、人生を、拗らせるべきじゃないんです」

228 名前:名も無きAAのようです:2013/02/06(水) 23:07:37 id:uGcmYyVQ0
(゚、゚トソン「余計な……お世話ですよ」

時々、キリキリとした感情に苛まれながらも無意味にテンションを上げなければならない場面がある。
それは飲み会や就職活動や友達付き合いであり、私は柄にもなく大声をあげたりする。
後になって訪れる疲労感は並大抵のものではないし、私はそういう時に、一番人生に向いていないと感じる。

そして今、私は激情でもって限りなく大声に近い声を出そうとしている。
内臓が縮んで固結し、鉛を抱えているような気分になる。

(゚、゚トソン「内藤さんは、まだ私とほんの少ししか交流していないじゃないですか。
     幾度かの会話と、一編の小説と、ハインの伝聞だけじゃないですか。
     たったそれだけでしょう。それだけで見透かせるほど、私を底の浅い人間だと思うんですか」

攻撃性で塗り固められた心の裏側に冷静な自分が内在している。
全てが自分に向かって牙を剥いているからこそ、彼を罵るのだと冷ややかに分析している。

(゚、゚トソン「私は確かに敬語で話します。話しますが、内藤さんと似ているなんて、限らないじゃないですか。
     そんなに私を理解したつもりになりたいですか。そんなに私を、いなしたいのですか。
     私だって、私だって一人の、人間なんです。私は、そこまで単純じゃないんですよ」

単純。

その文字――というよりも感覚――が脳裏にはりついた。
目眩を覚える。原因は分からないが、自分の頸動脈をナイフで突き刺したかのような、疼痛。

私は何をどこまで言えばいいのか分からなくなっていた。
自分が結局何を伝えたいのかも、それをどうやったら伝えられるのかも。

それが私の弱気さであり、自信のなさであると言うのならば、どうやったって否定できまい。

229 名前:名も無きAAのようです:2013/02/06(水) 23:08:31 id:uGcmYyVQ0
時間が過ぎる。

内藤氏は私の言葉を待ち受けるかのように黙り込んでいるし、私は私で針路を見失っている。
気の利いた一言でも言えたら良い。場の空気を和ませることが出来れば、それで十分だ。
私には脱兎の如く逃走する勇気もなければ、これ以上彼を糾弾する言葉も持たない。

自分の中で蟠っている思念を解きほぐすのにも集中出来ない。
目の前にいる内藤氏の存在が気にかかるからでもあるし、そもそも解きほぐす能力が無いからでもある。
ヒントのない意識の暗号文がただプカプカと浮遊しているのだ。手の施しようがない。

だからただ漫然と時間だけが過ぎていく。意味も目的も無く、描くに描けない時が流れ去っていく。

ふと、ハインやデレのことを思い出した。彼女たちは私の友人の中でも取り分け奇矯な人物だ。
大抵の知り合いはその場の環境や流れによって徐々に関係が築き上げられていく。
しかし二人は違った。私が興味を持ち、尚且つ手放そうとせずに今まで育ててきたのだ。

そんな記憶に、『単純』という文字を冠した雨滴が落ちた。意味は分からない。そういう想像なのだ。

そう言えば、前回内藤氏と出会った際にも、私は無意味にヒートアップしたような気がする。
あの時は今日よりもやや前向きだった。前向きというよりは、陽気だったとでも言えようか。
私は、自分があの時に何を得ていたのか今もって分からない。

小説か。やはり小説なのか。前回の陽気さも、今回の、怒気も、全て小説に因っているのか。

私にとって小説とはそこまで人生に深く打ち込まれている杭なのか。
いや、小説に限らず、人間というものが生きていくに際して、そうした生き甲斐はどの程度必要なのか。

230 名前:名も無きAAのようです:2013/02/06(水) 23:09:37 id:uGcmYyVQ0
他の人々が……例えば戦場で死んでいった兵士や、一生を奴隷として終える民や、
信仰に縛られ続ける教徒や、飢餓に苦しむ子どもが何を考え、そして何を糧に生きているのか。
そんなこと分かるわけもない。他人の私には、生きるべくして生きて死ぬべくして死ぬようにしか見えない。

しかしこの私が――都村トソンという、二十一歳で、乙女座で、A型で、女で、大学生の私が。
どのように生きるか、そして何をもって生きていると言えるのかも、私には分からないのだろうか。
平凡に平凡を極める一介の女子大生の生き様にさえ、正鵠を射ることは叶わないのだろうか。

いや――しかし私は、確かに生きているという実感を得た。

それが前回だった。
そこで起こった事実を列挙するなら、ただ内藤氏に小説を読んでもらえることになった、だけだ。

小説を書くとはどういうことか。少なくとも、表現に対する意欲を外側に向けて発散させることだ。
あの昂揚は、承認欲求が満たされたという、高々その程度の充足だったのだろうか。
あー、よかった、これでまた、私の作品を読んでくれる人が増える、と。それだけだったのか。

他ではない、内藤氏という人物に小説を求められた時、私は何を想ったのだろうか。

(゚、゚トソン「……」

ふと、思う。大学を卒業して、部活動という場を失ったら、その時、私はいったいどうすればいいのだろう。
表現として、今まで何とか口を糊してきた私の小説は、どこへ向かうのだろうか。
さして考え惑っている暇もない。その時がくるまで、最早一年程度しかないのだ。

231 名前:名も無きAAのようです:2013/02/06(水) 23:10:52 id:uGcmYyVQ0
( ^ω^)「僕が敬語を使うようになったのは……」

前触れもなしに内藤氏が口を開いた。

( ^ω^)「やっぱり……僕も変に子供じみていたんだと思います。
      他の人とは違う風になりたかったですし、それと現実の人生の、
      均衡を保つためにとった手段が……敬語だったんです」

( ^ω^)「もっとも、それが通用したのも大学生までで、社会に出れば敬語が当然ですが……」

(゚、゚トソン「……」

内藤氏は今や本物の――役所からも公認されたと言える――変人である。
それは手首の縫合からしても、客観的に明らかであると言えるだろう。
しかしそんな氏でさえ、少年時代はそうした『変人』に憧憬を抱く一少年でしかなかったというのか。

確かに、彼は一度は社会に出たこともある、真っ当な生き方を選ぶことも出来たであろう人だ。
それが何の因果か、豊富な資産背景と共に自室で鬱ぎ込むことになった。
『表現』に固執し、ネット上に自分の動画をアップロードして、ささやかな騒ぎを起こした。

そして、腑抜けに……。

(゚、゚トソン「一つ、伺っても良いですか?」

( ^ω^)「はい?」

232 名前:名も無きAAのようです:2013/02/06(水) 23:12:00 id:uGcmYyVQ0
(゚、゚トソン「何故……ハインの、働いているところへ行ったんですか?」

直接的に口にするのは躊躇われたが、要するに何故ソープランドなどへ足を運んだのか、ということだ。
ハインの言葉によれば内藤氏は何をするでもなく、ただ話をするために訪れていたそうである。
しかもその相手は常にハインであるらしかった。ハインでなければ、ならなかったのだ。

( ^ω^)「……これを、言うと、彼女の友達である都村さんには怒られそうだけど……」

( ^ω^)「あの時の僕は煮詰まっていたんですよ。煮詰まっていたというか……いよいよネタが切れたというか。
      でもやはり、この、弁舌を止められなくて……そして、あのお店に辿りついたんです。
      つまり、あのお店にいるような人であれば、僕のような腑抜けでも、受け入れてくれるだろう、と」

(゚、゚トソン「……そういう目で、ハインを見たんですか?」

( ^ω^)「誤解してほしくないんですが、ハインさんは個人的に素晴らしい人だと思います。
      彼女に出会うことが無ければ続けてあの店に行かなかったでしょうし……。
      むしろ、あんな店で彼女のような人に出会えるなんて考えもしませんでした」

(゚、゚トソン「……」

( ^ω^)「彼女は鬱陶しがっていたと思いますが……僕は、とても救われましたよ。
      ……もう、たぶん、行くことはないでしょうけれど」

233 名前:名も無きAAのようです:2013/02/06(水) 23:13:13 id:uGcmYyVQ0
(゚、゚トソン「……何故ですか?」

( ^ω^)「何故でしょうね……」

明らかな、はぐらかしの言葉を受けて私は考える。無論、私自身のことを、だ。
私が敬語を使い始めたのはいつ頃からだったろうか。
確か中学生の頃には既に敬語だったような気がする。小学生の時はどうだったろう?

それは、突き詰めると些細な切っ掛けでしか無いのだろう。
少なくとも私は『変人』願望を敬語に反映させるような真似はしなかったような気がする。
私は、どちらかと言えば変人を自己でなく他者に求める人間だった憶えがあるのだ。

それでは、いったい何故敬語を使うのだろう。

(゚、゚トソン「例えば、ですけど」

( ^ω^)「……」

(゚、゚トソン「他人と、一定の距離を置くために敬語を使う、ということは考えられませんか。
     私は自分が、あまり素晴らしい人間ではないと思っています。
     むしろ自分を貶めて生きているタイプです。それはそれで、自分のプライドを守る方法ではないかと」

私は理論立てて喋ってなどいない。むしろ話ながら、考えをまとめているような具合だ。

(゚、゚トソン「そんな自分は矮小であり、ともすれば吹き消えてしまうような灯火のようなものです。
     それは他者によって簡単に侵略されるものであって、自我を保つのも困難なのです。
     だから敬語を使うのではないでしょうか。それは、一種の境界線ではないでしょうか」

234 名前:名も無きAAのようです:2013/02/06(水) 23:14:06 id:uGcmYyVQ0
我ながら奇妙な理屈だと、言い切ってから思う。
しかし自分自身が敬語を使う確固たる理由などそれしか思いつかないのだ。
今までにも何度かしゃべり方について指摘されたことがある。それでも私は敬語を貫いた。

それほどの不動の意志が自分に眠っているとしたら、
それは殆ど生きることそのものであるといえるのではないか。

( ^ω^)「……都村さんには、他人を是認する能力があると思います」

(゚、゚トソン「はい?」

( ^ω^)「他人がそのままでいて良いと思えるような……何といえばいいのか、分からないのですが。
      ともかく、それは人を寄せ集めるでしょうし、現に僕も、そういった人間の一人なんですよ」

( ^ω^)「これはある意味で、嗜虐心なのか……」

デレの言った、全能感を思い出す。
私は内藤氏にさえもそういった、影響を与えているのだろうか。

私は自らが他人に与える影響力について殆ど考えたことがない。
常に影響される側だったからだ。しかしながら、私は確実に、他人を蝕んでしまっているらしいのだ。

その影響力は、善なのだろうか。

235 名前:名も無きAAのようです:2013/02/06(水) 23:16:14 id:uGcmYyVQ0
不意に破壊的な衝動が身を襲う。一人きりでいる時によく起きる衝動だ。
涙が溢れそうになるのを必死に堪えた。頭を抱えたくなる気持ちを、何とか抑えつける。

目の前に、内藤氏がいるのに。

もしかしたらこれは凶兆なのかもしれない。
生きていること、そのものへの凶兆。或いは、それに似た自己嫌悪の極致。
いや、それ以上に、汚泥じみた感覚が潜んでいる気がする。

( ^ω^)「……都村さん?」

私は生きている。私は何かを希求している。私は、表現を、しようとしている。
表現は影響を与えようとすることだ。私は、望まぬ形で、誰かに何かを及ぼしているのか。
そしてそれ以上に私自身が他人に塗れてしまっている。昨日のハインの言葉がまざまざと甦る。

どどめ色の、心。

様々な色付き水を好んで飲み込んだ。
まるで何も考えずに多彩な薬を併せ呑むかのように。
結果としてそれは酷い副作用を起こした。私の心を、穢していった。

私は私が思っている以上に、私の心を大事に扱うべきだったのかも知れない。

(゚、゚トソン「内藤さん」

私は立ち上がった。もう耐えられなかった。一言も発したくなかった。
そのまま去りゆく間際に私は、反吐のような言葉を落とした。

(゚、゚トソン「やっぱり、私たち、似ているのかも知れません……」

私は、都村トソン。
私は、喫茶店を出て、無心に歩き、それからようやく耐えることなく号泣した。



9.耐えない 終わり

そんな板 or スレッドないです。
返信2013/12/08 10:04:38
  • 99.耐えない jigendaddyjigendaddy 2013/12/08 10:04:38
    >http://jbbs.livedoor.jp/bbs/read.cgi/internet/13029/1358782024/:title> 214 名前:名も無きAAのようです:2013/02/ ...